Sustainability

サステナブルな 6G の実現に向けて

Force for Good

 

サステナブルな 6G の実現に向けて

 

コリーン・ジョセフソン(Colleen Josephson)

2022 年 1 月 6 日

 

「サステナビリティ」という言葉は、昨年さまざまなニュースや報道記事に取り上げられ、多くの人々の関心を集めました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は 14,000 本を超える科学論文をもとに、非常に重要度の高い報告書を作成し公表しました。この報告書では、人類が温室効果ガスの排出を直ちにコントロールできない場合、どのような事態が引き起こされるかを克明に記しています。この報告書の主要なメッセージは、カーボン ニュートラルに向けての迅速な前進を開始しなければ、異常気象、生物の生息環境の破壊、氷床の融解とそれに起因する海面上昇の進行が大幅に早まるだろう、というものです。

 

人類が共有するこのミッションに取り組むために VMware は、サステナブルな次世代モバイル ネットワークを推進するための組織、Next G Alliance 内のワーキング グループの主要メンバーとして活動しています。このワーキング グループは Green G と呼ばれており、本記事の著者(VMware のコリーン・ジョセフソン)、HP Enterprise の Marie-Paule Odini 氏、Microsoft の Micaela Giuhat 氏が責任者を務めています。

昨年における精力的な活動の成果として、同グループによるホワイトペーパーの第 1 弾となる『The Path Toward Sustainable 6G』が、多数の企業による参加のもと作成されました(VMware は同文書の作成に大きく貢献しています)。本記事では、このホワイトペーパーで示された主要なインサイトの概要と、私たちが次に進むべきステップとしてグループが提案する推奨事項についてご紹介します。

 

問題の細分化

サステナビリティに取り組むうえでは、再生可能エネルギーの枠を超えて思考する必要があります。確かにエネルギー消費はサステナブルな社会の実現に向けて取り組むうえで重要な側面ですが、それにとどまらず、電子機器の製造における土地および水資源の利用や原材料のリサイクルおよび調達などの要素も考慮する必要があります。

温室効果ガスの排出は、直接的な排出と間接的な排出という 2 つのカテゴリに分けることができます。直接的な排出には、施設で非常時用のディーゼル発電機などを利用する際の燃料燃焼による排出などが含まれます。一方、間接的な排出は、企業が直接管理しない活動によるものです。

これには、電力会社から購入する電気の発電プロセスや購入した機器の製造工程での二酸化炭素排出、出張の際の移動などに起因する排出が含まれます。多くの場合、企業の総排出量の大部分を占めるのは間接的な排出です。そのため、サービス プロバイダー、ネットワーク/データセンター事業者、ハードウェア メーカーなど業種を問わず、企業は事業のあらゆる側面についてサステナビリティを考慮する必要があります。

 

今日、モバイル ネットワークは大きな変革の途上にあります。図 1 に示すように、一般的なモバイル ネットワークは主に以下の 4 つの要素に分けられます。

 

  • スマートフォンや IoT デバイスなどのエンドユーザー デバイス
  • 無線アクセス ネットワーク(RAN)
  • コア ネットワーク
  • データセンター ネットワーク/クラウド

 

1:一般的なモバイル ネットワークの構造の概略図(『The Path Toward Sustainable 6G』より引用)

 

現在、ネットワーク機能を専用のハードウェアから仮想化ソリューションへと移行する動きが加速しています。最初に仮想化されたのはコア ネットワークでしたが、この変化は RAN やエッジなどネットワークのその他の領域にも急速に広がりつつあります。このトレンドはさらに、VMware の Telco Cloud Platform のような、コア、RAN、エッジの全要素がソフトウェア上で運用される包括的な仮想化ソリューションの利用の拡大へとつながっています。

その結果、通信/モバイルネットワークと情報通信技術(ICT)の両業界間の境界が全体的に曖昧になってきています。ネットワーク機能のデータセンターへの移行の進展に伴い、ネットワークに関するエネルギー消費においてデータセンターの占める割合はほぼ 5 倍にまで増加すると予想されています。そのため、従来の通信業界という枠組みだけにとらわれず、ICT 業界全体という視野に立って排出量の問題に取り組むことが求められています。

 

 

図 2:4G/5G モバイル ネットワークの各要素のエネルギー総消費量が消費量全体に対して占める割合(『The Path Toward Sustainable 6G』より引用)

ICT 業界は、温室効果ガスの排出量削減において重要な役割を果たす必要があります。通信事業者の電力消費量は全世界の電力供給量の 2 ~ 3% ですが、広義の ICT 産業で見るとこの割合は 5 ~ 9% になります。これらの数値はそれほど大きくはないようにも思えますが、デジタル化の急速な進展を考慮すると、ICT 産業の電力消費量は 2030 年までに全世界の電力供給量の 20% におよぶ可能性があると推定されています。

このようなエネルギー消費の増加予測は、利用効率の低下に起因するものではありません。より主要な要因は、人口の増加と際限ない高速通信の追求により、データ利用へのニーズが高まり続けることです。ネットワーク効率の分野はこれまで飛躍的な進歩を遂げてきました。しかし、さらなる対策に取り組まない限り、将来における排出量と電力消費量の劇的な増加は避けられません。電力消費を削減するとともに再生可能なエネルギー資源への移行を進めるための、新しい革新的な方法が求められているのです。

 

有望なイノベーションの活用

サステナブルなネットワークを実現するには、ネットワークの各要素を進化させる必要があります。VMware には、RAN、エッジ、コア、データセンターにおけるイノベーションを推進できる独自の強みがあります。5G においても、ネットワークの各要素の多くはデータセンターに展開されたソフトウェア コンポーネントによって仮想化できます。キャリアは、カスタマイズされたハードウェアに基づくソリューションから、汎用ハードウェア上でのソフトウェアによる機能の実装へのシフトを進めています。

これまで特定の目的に特化した専用のハードウェアが担ってきたネットワーク機能は、データセンター、クラウド、エッジ(そして今後登場する新しい技術)へとますます分散されつつあります。このトレンドは、今後の 6G の世界でも変わらないと見込まれます。ソフトウェアベースのネットワークのメリットの一つは、従来のハードウェア中心のモバイル ネットワークに比べ、開発サイクルが高速化することです。これにより、省エネルギーに貢献する新しい機能の開発がスピードアップし、ネットワーク展開の阻害要因が大幅に解消されます。

 

冒頭で紹介したホワイトペーパーでは、6G ネットワークを構想する際にどの領域に注力すべきかについて、以下のような多くの提言が示されています。

  • 環境配慮型のデータセンター仮想化、ネットワーク管理テクノロジー、IoT のエネルギー消費などの分野におけるイノベーション創出に投資する。
  • 6G 以降のネットワーク設計では、現在のネットワークにおいて信頼性や可用性といったメトリックが重視されるのと同程度に、エネルギー消費量を最重要クラスのメトリックと捉える。エネルギー消費量に関する正確で信頼性の高いリアルタイム/ニアリアルタイムのデータは、迅速なプロトタイピング、エネルギー効率に関するイノベーション、設計ミスの検出のための重要な情報となる。

 

ICT の活用によるサステナビリティの推進

データ ネットワークは現代の経済を支える重要な基盤です。多くの業界にとって ICT が不可欠となっている今日、顧客企業にとっての間接的な排出量の削減という観点で、ICT 業界にはみずからの温室効果ガス排出量を可能な限り抑制する責務があります。この当然の責務を果たすことにとどまらず、ICT 業界はさらに、ほかの業界におけるサステナビリティ向上に対してより革新的な方法を提供できる力を備えています。たとえば、環境センサーのネットワークを活用することで、従来よりも優れた方法で資源消費量を管理できます。

5G Open Innovation Lab などのプロジェクトでは、センサー ネットワークによって土壌の水分量をモニタリングし、農業用水の消費を抑制するといった技術を探究しています。

ビデオ会議やテレプレゼンスのソリューション(AR/VR を活用)など、テレワークをサポートするためのソリューションは、出張や通勤による二酸化炭素排出量の削減に貢献します。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、この分野でのデジタル活用の潮流は一気に加速しました。オフィス ワーカーのほぼ 60% が、顧客、サプライヤー、同僚との間でオンライン会議が増加した現在の状況が今後も続くと予測しています。このような変化により、リモートでのコミュニケーションをサポートするより優れたツールの必要性が高まっています。

ICT 業界における研究とイノベーションの取り組みを集中させるべきその他の分野としては、スマート グリッドやグリッドインタラクティブ データセンターのほか、マイクログリッド(デバイス間で電力を共有、売買する小規模なシステムにより、バッテリー増設を抑制できる)などが挙げられます。

 

これらから導かれる結論は、サステナビリティの推進において ICT 業界が持つ潜在的な力は非常に大きいということです。ある試算では、ICT 業界は 2030 年までに同業界の排出量の 10 の温室効果ガス排出量を削減できると推定されています。

 

次のステップ

VMware にとって、環境、社会、企業ガバナンス(ESG)に関する取り組みは非常に重要です。VMware は 2030 アジェンダという行動指針のもと、Green G のホワイトペーパーで示された提言に沿ったさまざまな取り組みにおいてすでに成果をあげています。しかし VMware は、新たな挑戦を続ける必要があることを認識しています。これまでの成果に満足して、歩みを止めるわけにはいきません(とはいえ、ダウ・ジョーンズ サステナビリティ インデックス(DJSI)の構成銘柄に 2 年連続で選定されたことには、素直に誇りを感じています)。

このような決意のもと、VMware は 2022 年以降もサステナビリティへのコミットメントをさらに強化し、サステナビリティに貢献するイノベーションを加速させていくという方針を掲げています。サステナビリティに関する取り組みは困難な課題です。しかしそこには大きなチャンスも秘められています。VMware は、よりサステナブルな未来の実現に向けた歩みをリードするという使命に、これからも情熱をもって取り組んでいきます。

 

サステナブルな 6G の実現に向けた取り組みについて詳細に解説した Green G のホワイトペーパーの全文はこちらでお読みいただけます。Green G ワーキング グループは、ホワイトペーパーで示されたインサイトを解説するための Web セミナーを近日開催する予定です。ほかにも、サステナブルなモバイル ネットワークに関するさまざまなトピックを扱う、数点のホワイトペーパーを作成中です。今後の活動にどうぞご期待ください。

 

コリーン・ジョセフソン(Colleen Josephson)

コリーン・ジョセフソンは VMware Office of the CTO の分散エッジ チームでリサーチ サイエンティストを務めています。 研究の専門分野はワイヤレス通信、センシング システムであり、特にサステナビリティの向上を促進するテクノロジーに取り組んでいます(プロフィールの詳細は、名前をクリックすると参照することができます)。

 

*US原文は下記URLよりご覧ください。(英語サイト)

https://octo.vmware.com/the-path-toward-sustainable-6g/