第二回:メインフレームのアーキテクチャ特性と VCF 9 による実装アプローチ
第一回では、ハードウェアベンダー各社の撤退方針や保守技術者の減少を背景に、メインフレームからの脱却が喫緊の課題であることを整理しました。また、リスクを抑えて移行を進めるためには、パブリッククラウドのマルチテナント環境へ一括移行するのではなく、自社統制を保てる基盤上で段階的なリファクター(自動コード変換と次世代インフラの組み合わせ)を選択することが現実的な解であると述べました。
一方で、業務の中核を担ってきたメインフレームからオープンなインフラへ移行するにあたり、最も懸念されるのは、業務に求められる処理性能や耐障害性を維持できるのかという点です。
連載第二回となる本稿では、メインフレームが長年担保してきた非機能要件の背景を整理したうえで、次世代基盤『VMware Cloud Foundation®(VCF 9 )』が汎用サーバー上でそれらをいかに実装し、運用性を高めているのかを解説します。
1. メインフレームの堅牢性を支えるアーキテクチャの特性
メインフレームが長年にわたり基幹システムで重用されてきた理由は、ミッションクリティカルな業務を停止させず、大量のトランザクションを確実に処理し続ける高い信頼性にあります。この優れた非機能要件は、単なる計算能力の高さではなく、以下のようなハードウェアレベルのアーキテクチャ特性によって支えられていました。
- ハードウェアレベルでのリソース分離
CPU、メモリ、I/O チャネルが厳格に区画化されており、特定業務の負荷スパイクが他の基幹処理に波及しない構造になっています。 - 低遅延で確定的な I/O 処理
メインプロセッサーとは独立した専用の I/O プロセッサーとチャネル機構により、CPU に負荷をかけずに大量のディスクアクセスを並行処理します。 - 障害の事前検知と縮退・交代機能
部品レベルのエラーを検知して予備パーツへ自動で切り替えるなど、ハードウェアの冗長構成を前提とした可用性を備えています。
オープン環境への移行プロジェクトにおいて性能や安定性のトラブルが発生する場合、言語変換などのアプリケーション改修や後方互換性の維持に注力するあまり、インフラ層が担っていたこれらのアーキテクチャ特性への配慮が不足しているケースが少なくありません。
2. メインフレーム特性に対する VCF 9 による対応策
メインフレームが持つ堅牢性のうち、インフラ層が担ってきた非機能要件(可用性や負荷分離、I/O 制御など)については、VCF 9のソフトウェア定義(SDDC:Software-Defined Data Center)技術を用いることで論理的に置き換えることが可能です。システム全体の適切なアーキテクチャ設計と組み合わせることで、以下の機能や構成により安定した稼働環境を提供します。
① 負荷分離:NSX Enhanced Data Path(EDP)による処理効率化とリソース予約
メインフレームのチャネル構造のように、インフラ処理による CPU 圧迫を防ぎ業務処理の性能を確保する手段として、VCF 9 では『Enhanced Data Path(EDP)』を活用します。EDP は、ESX のカーネルレベルでパケット処理を最適化するソフトウェア定義の高速ネットワークデータパス技術です。標準的なパフォーマンス NIC 環境において、ネットワーク処理に伴う CPU オーバーヘッドや割り込み遅延を最小限に抑え、業務アプリケーションへ最大限の CPU リソースを割り当てることができます。
特筆すべきは運用面での優位性です。ハードウェア依存の特殊なアクセラレーターを追加する構成とは異なり、EDP は VCF 9 のキー機能である『ESX Live Patch(再起動を伴わない無停止パッチ適用)』との完全な互換性を維持します。これにより、高い処理性能と保守時の無停止運用を両立できます。さらに、ESX のリソースプール設定で業務 VM に対して『CPU Reservation(リソース予約)』を割り当て、特定 CPU コア(NUMA ノード)へ処理をバインド(CPU Affinity)することで、他業務の負荷変動に伴う性能低下を抑止します。
② I/O 性能:vSAN ESA と SPBM による遅延の抑制と帯域確保
独自のバス構造を持つメインフレームの I/O 処理に対し、VCF 9 では NVMe SSD の処理性能を直接引き出すアーキテクチャである vSAN Express Storage Architecture(vSAN ESA)を採用します。ストレージ部分をすべて NVMe SSD で構成された vSAN ESA 環境では、カーネルレベルで NVMe デバイスに最適化された処理パスを通ることで、I/O 処理に伴う CPU 負荷を削減し、低遅延なデータ処理を実現します。
さらに、ストレージポリシー(SPBM)を用いて VM 単位で I/O 制御(QoS)を適用します。具体的には、データベースなどの基幹ワークロードの帯域を優先的に確保するために、相対的に優先度が低い他ワークロード(例:ログ収集サーバー、開発・検証環境、一部のバッチ処理等)に対して『 IOPS 上限値(Limit)』を意図的に設定します。これにより、周辺システムの突発的な負荷によるストレージ帯域の独占を防ぎ、重要業務にリソースを集中させることが可能です。
このアーキテクチャにより、夜間バッチやトランザクション集中時であっても、I/O 処理のボトルネックや干渉を抑え、基幹業務に求められる安定した応答性能を維持します。
③ 障害対策:Proactive HA と Predictive DRS による予兆検知・退避
突発的なハードウェア障害に対する従来の HA(障害発生後の再起動)に加え、兆候を捉えて事前に対処する多層的な保護策を講じます。まず、Proactive HA をサーバーの管理機構( iDRAC や iLO 等)と連携させ、メモリの訂正可能エラーの頻発やファン、電源ユニットの異常兆候を監視します。障害の予兆を検知した場合、該当ホストを『 Quarantine Mode(隔離モード)』へ自動移行させ、新規VMの配置を制限しながら稼働中のVMを退避させます。
同時に、Predictive DRS(pDRS)が統合管理基盤(VCF Operations)のエンジンと連携し、過去の稼働実績やリソース変動トレンドから将来の負荷集中を予測します。これらの機能により、ハードウェア障害の予兆や局所的な性能低下が顕在化する前に vMotion を実行し、稼働中の仮想マシンを健全なホストへ自動退避させます。突発故障に備えるアプリケーションレイヤーのクラスタリング設計等とこれらを組み合わせることで、業務停止のリスクを包括的に低減します。
3. オンプレミスと専有クラウド基盤を組み合わせたハイブリッドな運用
VCF 9 の採用によって得られる利点は、メインフレームと同等の堅牢性をシステム全体で担保しつつ、運用の柔軟性を手に入れられる点にあります。アプリケーション層は自動変換ツール等を用いて COBOL から Java 等へリファクターし、業務ロジックの可視性を高めます。これに伴うランタイムの振る舞いの変化に対しても、インフラ層に強力なリソース制御機能を持つ VCF 9 を採用することで、安定稼働を支えることができます。また、システムの配置先を特定のハードウェアに固定する必要もなくなります。
自社データセンターのオンプレミス環境だけでなく、ハイパースケーラー上で展開される専有 VMware 基盤( VMC on AWS、AVS、OCVS 等)に対しても、同一の運用手順やセキュリティポリシーを維持したままワークロードを展開できます。これにより、機密性やガバナンス要件に応じた適材適所のデータ配置と、クラウド基盤の俊敏性を両立させることが可能になります。
まとめ:インフラのモダン化による基幹システムの安定稼働
メインフレームが備えていた非機能要件は、VCF 9 やハイパースケーラー上で展開される専有 VMware 基盤の活用と適切なアーキテクチャ設計の組み合わせによって、オープンな基盤上でも論理的に再現できます。アプリケーション層のリファクターと、インフラ層の VCF 9 による堅牢なリソース・可用性制御を組み合わせることで、ベンダーロックインや技術者不足といった事業継続リスクを克服し、将来の変化に柔軟に対応できる次世代の基盤環境を実現できます。
出典・参考リソース
- VMware 公式ドキュメント:
VMware Cloud Foundation 9 Overview – VMware Docs VCF 9 の統合アーキテクチャ、運用管理機能、および SDDC 設計に関する技術仕様が開示されています。 - VMware 公式テックブログ(Tanzuチーム公開):
An Architecture Path to Mainframe Modernization – Tanzu – VMware Blogs アプリケーション層の段階的な切り出しと、インフラ層における非機能要件の担保について解説されています。