最近、教育、銀行、医療などのさまざまな業界の CEO と話す機会がありましたが、そこでよく話題になったテーマが 2 つあります。1 つは、自社を革新的なデジタル企業にしようと、一世代に一度の変革の推進に専心している点です。この動きに乗り遅れると競争力を喪失しかねないため、多くのリーダーが自社の戦略でのこの側面を「攻めの戦略」と表現しています。クラウドへの移行を加速させ、成長に向けた取り組みへの投資により、顧客と新たな関わり方を構築し、自社の製品やサービスの差別化を目指しています。
同時に、多くのリーダーはすべての事業で取り巻くマクロ経済環境が大きく変化したと強く感じています。戦争が起こり、サプライチェーンに制約が生じ、オイル ショックやエネルギー不足やインフレも発生し、これまで実質的に自由に実施できていた成長に向けた投資にも、今では制限がかかっています。このような不確実性に直面したビジネス リーダーは今、スピードの最適化やコストの削減、レジリエンスの強化など、「守りの戦略」にも意識を集中し始めています。
最も重要な点は、機敏なリーダーはこの攻めと守りが同時に必要であると認識していることです。そしてリーダーが抱く重要な問いは「デジタル トランスフォーメーションにより売上を拡大し続け、コストの最適化を通じて収益性を向上させる方法」に他なりません。
この問いへの大半は、複数のクラウドを効果的に切り替えて利用することで解決できます。グローバル レベルで見ると今や約 7 割の企業が日々の業務をマルチクラウド環境で運用しており、その観点で考えると、私たちは 1 つの転換期を迎えていると言えます*1。私が会話をしたリーダーが、マルチクラウド環境の管理で成熟度と洗練度の向上に重点を置いていたのも当然と言えるでしょう。その成熟度と洗練度が、売上の伸びや利益の収益性に影響を及ぼすことを理解しているためです。
しかし現実問題として、多くの組織がクラウド全体のコストの管理と調整に頭を悩ませています。世界各国の約 6,000 の組織を対象に、市場調査会社の Vanson Bourne が行った当社の委託調査によると、ビジネスの成功にマルチクラウド アーキテクチャは不可欠であると 95% が回答する一方、マルチクラウドを採用しているこれらの組織の 76% が、クラウドのコスト管理の強化が必要があると述べています*2。つまり現在、マルチクラウドは必須要素になっている一方、そのコストが大きな負担となっています。
攻めと守りの両立
VMware は、さまざまな組織がクラウドスマート アプローチで攻めと守りを同時に実現できるよう支援しています。その意味を説明します。クラウドスマート戦略のコアは、一貫性、セキュリティ、コスト効率の面でより優れた運用モデルを、日々利用しているさまざまなクラウドで利用可能にすることです。
「守り」の面で見ると、クラウドスマート戦略は、クラウド投資における可視性と管理性を大幅に高め、コスト削減を可能にします。どのパブリック クラウドを選択した場合も、VMware のインフラを活用すれば、クラウドへの移行コストを半分に抑えられます。また、VMware のアプローチでは、サイバー攻撃への防御を強化する組み込み型の「ゼロトラスト」セキュリティ モデルの導入により、レジリエンスの強化も可能です。
一方、「攻め」の観点では、クラウドスマート アプローチはビジネスの成長を実現する新しいアプリケーションの展開を加速しながら、企業インフラ全体をモダナイゼーション、自動化します。また、クラウドスマート アプローチでは、分散型の働き方に重点を置いており、社員のつながりを維持し生産性を確保するために必要なアプリを、スムーズかつよりセキュアに利用できるようにしています。
生成 AI にもクラウドスマート アプローチを適用
さらに、さまざまなシニア リーダーとの会話を通じて、人工知能(AI)の可能性に強い興味を示している点も分かりました。ChatGPT などのアプリケーションを支える大規模な生成言語モデルの形態に対しては、特にこの傾向が顕著です。シニア リーダーは、これらの基盤モデルが企業にとっての新たなプラットフォームになると、いち早く認識しています。
顧客情報の完全な保護と、機密性の高いエンタープライズ データでの生成 AI ツールの利用の両立をどのように実現させるべきか、リーダーたちは自問自答しています。VMware は業界をリードする NVIDIA などの企業と連携し、AI にもクラウドスマート アプローチを適用可能にし、企業はデータセンター、マルチクラウド、エッジで、次世代の AI アプリケーションをセキュアかつコスト効率の高い方法で開発、運用できます。
生成 AI が攻めと守りの両面で同時に効果を発揮する可能性を秘めていると考える CEOは、ソフトウェア開発部門やカスタマーサービス部門、マーケティング部門などの生産性の強化に AI を活用しています。たとえば、多くの企業がすでに ChatGPT で顧客からのさまざまな問い合わせにすぐに回答するサービスを始めており、ChatGPT の回答はニュアンスや正確さの点で目を見張るものがあります。このことは、主に分析や予測中心だった、企業におけるこれまでの AI の利用形態が根本的に変化したことを意味しています。
まとめ:クラウドスマート アプローチこそ、デジタル トランスフォーメーションを実現するための最も効果的な手法であると、ますます多くの組織がその価値を認識し始めています。今後、生成 AI の利用が拡大していくなかで、クラウドスマート アプローチは企業にとって既定の運用モデルになっていきます。
脚注 1、2:Vanson Bourne、『The Multi-Cloud Maturity Index Research Report』、2022 年 10 月