DX (デジタル変革)というワードが世を賑わすようになってはや 5 年以上は経つのではないでしょうか。IT にまつわるバズワードはこれまでも数多くありましたが、 DX は IT のみならずビジネスに関わるキーワードであるせいかこれまでで最大のバズワードではないかと個人的には感じています。
「 DX の定義」についてはこれまで様々なところで議論されてきましたが、ここでは経済産業省の「 DX レポート」での定義を参考にしています。DX レポートは 2018 年に第 1 版が発行されていますが、昨年 7 月に 2.2 が発行されています。そこで強調されているのは、企業に向けて以下3点のアクションを提示していることです。
- デジタルを、省力化・効率化ではなく、収益向上にこそ活用すべきであること
- DX推進にあたって、経営者はビジョンや戦略だけではなく、「行動指針」を示すこと
- 個社単独ではDXは困難であるため、経営者自らの「価値観」を外部へ発信し、同じ価値観をもつ同志を集めて、互いに変革を推進する新たな関係を構築すること
出典:経済産業省「DX レポート 2.2 」
ここで挙げられた、新規デジタルビジネスの創出と収益に直結する既存ビジネスの付加価値向上において、弊社がお客様をご支援できると考えているサービスのひとつが VMware Tanzu Labs です。この記事では、Tanzu Labs の概要と主な事例について紹介します。
新規デジタルビジネス創出においていくつかのチャレンジがあると考えています。
- 仕様化の難しさ
顧客のタッチポイントとしてスマートフォンを活用して顧客に最適な情報を提供する、一般消費財の購入履歴に基づき、顧客のウェルビーイングに役立つ情報を提供する、少額決済を簡単に提供する、など私たちの周りには多くのデジタルサービス(=アプリ)が存在しています。これらのアプリケーションの難しさのひとつは「それが本当に顧客の望むものなのか?」を仕様化できないことではないでしょうか? SoR 系の要件定義が簡単というわけではありませんが、行うことがわかっている SoR に比べて SoE 系のアプリケーションは顧客は誰なのか? 顧客が本当に望むのはなんなのか?を定義するのが困難だと思います。 - アプリケーションの頻繁な変更
SoE アプリケーションは一度作ったらそれで終わり、ではありません。顧客のニーズに応じて新機能を追加したり、機能を変更したり、あるいは顧客の使いやすさを求めて UI の変更をスピーディに何度も行う必要があります。頻繁かつスピーディなアプリケーション開発を実現できる手法とチームが必要になります。
Tanzu Labs によるアプリケーション開発の改革
Tanzu Labs とは、VMware Tanzu の基礎をなす旧 Pivotal Software 社の Pivotal Labs を継承したサービスです。約 30 年に渡り、世界中のお客様のソフトウェア開発手法、チーム、組織文化の改革をご支援しています。
Tanzu Labs には数多くの特徴があるのですが、コンパクトにまとめると以下の点かと考えます。
- マインドセットを変える:プロジェクト指向からプロダクト指向へ
- 内製チームの構築:具体的なプロダクト開発を通じお客様にスキル移転
- ペアリングを重視
- 開発手法を変える:リーンアジャイル開発
- 組織文化を変える:シリコンバレー流のチームと組織文化
この記事では、Tanzu Labs が提供する、
- チームと役割
- プラクティス
- 働き方
について紹介します。
チーム体制と役割
Tanzu Labs では、プロダクトマネージャ、プロダクトデザイナー、エンジニアという 3 つのロール(役割)で構成される「バランスチーム ( Balanced Team )」でソフトウェアプロダクト開発を行います。チー ムメンバーがそれぞれの専門知識と多様な視点を持ち寄ることで皆がその知識を活用し、 情報に基づく意思決定をすばやく下すことができるようになります。一度に 1 つのプロダクトに携わり、プロダクトのライフサイ クル全体にわたって関与します。これにより、フィードバックサイクルやコンテキス ト共有にかかる時間が数日から即時へと短縮されるのです。バランスチームの構成は調整可能で 、課題領域固有のニーズに合わせてカスタマイズできます。 たとえば、データ集約的または機械学習を伴うプロジェクトでは、データサイエンティストを加えます。
プロダクトマネージャはリーンを実践しプロダクトの実行可能性に焦点を当てます。チームのバックログを継続的に優先順位付けし、ユーザーのニーズへの深い理解に基づいて、ビジネス目標とステークホルダーのビジョンとの間のバランスを取ります。
デザイナーはユーザー中心デザイン ( UCD ) とデザイン思考を実践します。デザイナーはユーザーの声を代弁し、ユーザーリサーチから知見を抽出し、チームがエビデンスに基づく戦略的な意思決定を下せるようにします。
エンジニアはアジャイル開発(エクストリームプログラミング)を実践し、プロダクトに対する解決策の実現可能性に焦点を当てます。エンジニアは使用するテクノロジーを選び、プロダクトを本稼働させる方法について決定し、プロダクトに対するすべての技術的意思決定を支援します。
プラクティス
それぞれのロールに応じた実践手法は以下のとおりです。
プロダクトマネージャ:
- 実用最小限の製品 (MVP)
- 小さな製品での実験
- 仮説の特定とテスト
- 顧客の理解
- 実際のプロダクトの頻繁なリリース
- データに基づいた方向性の調整
- 構築/測定/学習のループ
- 検証された学習への焦点
デザイナー:
- ユーザーインタビュー
- コンセプト検証
- ペルソナ定義
- エスノグラフィ
- ユーザビリティテスト
- 現在の行動を活用する
- 共感に焦点を当てる
エンジニア:
- ペアプログラミング
- レトロ(振り返り)
- テスト駆動型開発
- 短い反復開発
- インクリメンタルな計画
- 柔軟性のあるスケジューリング
- CI / CD(継続的インテグレーション / デリバリー)
Tanzu Labs で実践しているプラクティスの詳細についてはこちらをご覧ください。
Tanzu Labs でのプロダクト開発アプローチの特徴は、反復開発に入る前にユーザーの真の課題を迅速に解決する柔軟な枠組みを展開していることです。それは、適切なソリューションに近づけるようアクション可能であること。プロダクトの課題の解決にエネルギーを集中できるよう反復可能であること。そして、同じプロダクトジャーニーは 2 つとないため柔軟であることです。Tanzu Labs ではこれを「ディスカバリー アンド フレーミング (発見と枠組みづくり) 」 と呼んでいます。今日多くのデザイン手法がありますがもっとも欠けているのは「なぜ」の 追求です。チームが「なぜ」を理解できれば、処方的なプロセスから離れ適切なツールを使用して価値のあるソフトウェアプロダクトを構築できます。
ディスカバリー:
プロダクト開発のジャーニーはすべてディスカバリー(発見)から始まります。ディスカバリー作業は 2 週間という短期間で行われ、この間にプロダクト領域、 ビジネス推進要素、既存のテクノロジーまたは技術的制約、そしてユーザーについ てできるだけ多くを学びます。ディスカバリー期間中、チームは最高のビジネス価値およびユーザー価値につながる重要課題を優先順位付けし、この情報に基づいてソリューション候補を決めます。
ディスカバリーに必要なアクションは次の3つです。
- 仮説を特定する
- 証拠を集め、検証(または反証)する
- 解決すべき重要課題を優先順位付けする
フレーミング:
最初に解決する課題が決まったらフレーミングに進みます。この段階では、 数多くのソリュー ション候補について、調査、評価、 反 復を行います。 段階を進むにつれ、ユーザーに関して、またソリューションのデリバリーに使用する技術に関して、新しい情報が次々と出てくることでしょう。フレーミングで重要なことは、プロダクトの構築を開始し、ユーザーの手に渡すべく、ソリューションの方向性に関する初期の疑問点を解決することです。この作業は、 主に次の3つの活動領域に分かれます。
- 数多くのソリューションを模索する
- 高い価値をもたらす出発点に集中する
- コンセプトを検証するための実験を行う
働き方
アジャイル開発チームの働き方についてどのような印象を持たれますか?
- Tシャツに短パンで仕事をしている人がいる(これは事実です(笑))
- みんなでワイワイガヤガヤ話しながら仕事をしている(これも事実です)
- 生活が不規則で夜遅くまで仕事をしているので、朝の仕事始めはみなばらばら(これは間違いです)
Tanzu Labs での働き方は、
- 残業はしない – 朝 9:06 から18:00 までと決められた仕事時間
- 1日、1週間(月〜金)に決まったリズムに基づく作業(もちろん、土日に出勤することはありません)
1日と1週間の働き方を以下に図示します。
新型コロナウイルスにる行動制限はだいぶ緩和されてきましたが、リモートワークやハイブリッドワークを行う企業もいまだ多いのではないでしょうか。このような場合でも Tanzu Labs では zoom や Miroなどを活用しオフィス環境での作業と同じ体験を作り出しています。
リモート環境での 1 日の過ごし方は、こちらの動画をみていただけるとイメージしやすいと思います。
基本的には毎日同じパターンで作業をするのですが、月曜と金曜は少し違います。
月曜の最初は、IPM (反復計画ミーティング)を実施します。IPM では、プロダクトバックログがチームメンバー全員によく理解され、常に現在の優先順位が反映されていることを確認します。プロダクトバックログの項目を議論しサイズを決めることで、チームは行うべき作業の納期への影響について一致させることができます。
金曜の夕方は、レトロ( Retrospective : 1週間の振り返り )ミーティングを行います。月曜日に立てた計画に対し、
- できたこと(よかったこと)
- まあできたこと
- できなかったこと(改善が必要なこと)
をチームで集めます。良かったことに対してはチーム全体で褒め称え、できなかったことに対しては、翌週への改善点として繰り越すのです。こうすることで、継続的に改善してゆく組織文化が醸成されてゆきます。
そして、金曜日の18時には完全に業務終了です。皆で1週間の仕事を褒め、週末は家族や個人の時間を過ごしながら翌週への英気を養います。
お客様事例
Tanzu Labs は日本でも数多くのお客様に導入いただていています。ここでは、公開されている事例の一部を紹介しましょう。
ヤフー株式会社:
- 簡単ではない「アーキテクチャや文化の改善」を実践し続けるポイントとは – ヤフーのあくなき挑戦、サービス基盤と開発スタイルをどう進化させてきたか
- ペアプログラミングが特徴的な開発手法「Lean XP」を取り入れた「820 Labs」オープン!
株式会社東京証券取引所:
- ” 攻め” のビジネスを実現していくためにVMware Tanzu Labsでリーン・スタートアップを1から修得 – ビジネス領域に踏み込んだ支援で従来と異なるアプローチが可能に
- 責任は重大、要件は不確定 – 億単位の金額を扱う新システム開発に、東証と富士通はどのように立ち向かったのか
東日本旅客鉄道株式会社
- 「ヒト」を起点とした新しい価値の創造へ、 リーンXPにおける知見と手法を実践的に修得し、MaaSの実現を見据えた新生『JR東日本アプリ』を開発
- JR東日本アプリ開発を振り返る – マネジメントの立場から見た Lean XP の現場
最後に
この記事では、Tanzu Labs が提供する開発プロセス、チームづくり、働き方について紹介してきました。でもこの記事に書けていないことがまだまだあります。
内製チームの組成に関心のある方、新規デジタルビジネスの創出にお悩みをお抱えの方はぜひご連絡ください。より詳細なお話をお客様とさせていただきたいと考えております。