2021年2月より VMware HCX のライフサイクルポリシーとバージョン命名規則が大きく変わりました。同時に新しい機能もいくつか追加されましたので、まとめてご紹介します。尚、本ブログは「Introducing HCX 4.0: Migration Event Details and Estimation, In-Service Upgrades, and more」の抄訳版です。

 

 

HCX 4.0 のリリース

VMware HCX は、オンプレミスやクラウドに関わらず VMware 環境(vSphere 6.0 以降のバージョンで構築された環境)の間でワークロードの移行を最適化するモビリティプラットフォームです。VMware HCX は、 大規模な移行や移行時間の短縮など、クラウド移行を効率化するツールとして世界中で数千のお客様に使用されています。

この度、VMware HCX の新しい機能追加と機能拡張を含むメジャーリリースとして「HCX 4.0」 を発表しました(2021年2月23日リリース済み)。 このリリースでは、運用の可視性向上やアップグレードにおけるダウンタイムの削減、NSX セキュリティポリシー再構成の簡素化が新しく追加されました。ここでアップデートをまとめてお伝えします。

 

 

新しいバージョン命名規則とライフサイクルポリシー

今回のメジャーリリースから、VMware HCX のソフトウエアバージョンの命名規則を変更しました。VMware の標準的な規則に合わせて「セマンティックバージョニング」を採用することとし、今後は「HCX 4.0.0」のようにソフトウエアバージョンを表記します(図1)。

また、製品のライフサイクルポリシーには「VMware N-2 Lifecycle Policy」が適用されます。メジャーリリースまたはマイナーリリースごとに、最低12か月のサポート期間が適用されます。製品のサポート終了日については、「VMware 製品ライフサイクルマトリックス」にてご確認ください。同じく、VMware HCX ソフトウェアのサポート、ライフサイクル、およびバージョンスキューポリシーについては「VMware HCX Support and Version Policies」をご覧下さい。

図1  HCX の新しいバージョン命名規則

 

 

Migration Estimation

HCX 4.0 の新機能として、移行時間をリアルタイムで予測する「Migration Estimation」を追加しました。この機能により、管理者は移行の処理時間を予測できるようになりました(図2)。

VMware HCX は、Mobility Group という機能を提供しています。これは、ビジネス要件に基づいて移行対象の仮想マシンをグループ化してまとめて移行できる機能です。この Migration Estimation は Mobility Group でも活用できます。移行予測時間は、仮想マシン単位で確認できますが、その積み上げによって移行プロセス全体の時間も予想できます。

この機能を実現するために、VMware HCX はリアルタイムの予測学習モデルを採用しています。ベンチマークやテストフェーズで行われた移行の経験則に基づいて、移行プロセスを完了するために必要な時間を予測します。

Migration Estimation は、現時点において Bulk Migration でのみ使用可能です。 HCX vMotion など他の移行タイプについては、将来サポートすることが計画されています。

図2  Migration Estimation の画面サンプル

 

 

Migration Event Details

今回のリリースから、移行プロセスに関わるワークフローの内訳が表示できるようになりました。この機能を「Migration Event Details」と呼び、VMware HCX で使用できる全ての移行タイプ(HCX vMotion や Bulk Migration、Replication-Assisted vMotion、 OS-Assisted Migration)で使用できます。

Migration Event Details は、移行に関わるステータスやイベント(成功または失敗)、特定状態に留まる時間など、移行プロセスに関わる詳しい情報をログに記録、および画面に表示します(図3)。

Migration Event Details は、管理者が移行プロセスの進捗を把握するとともに、問題の診断に役立ちます。また、 イベントを包括的に評価するために、イベントごとにオフセット時間(イベント開始から経過した時間)が併せて表示されます。尚、本機能は YouTube「VMware HCX Migration Event Details Demo」でも確認できます。

図3  Migration Event Details の操作画面サンプル

 

 

Network Extension Details

今回のリリースから、ネットワーク拡張(L2 延伸)を実現する仮想アプライアンス(HCX-NE)に対して、より詳しい統計情報が確認できるようになりました。この「Network Extension Details」機能は、延伸されたネットワークの統計情報(ビットレートや送受信されたバイト数、パケットレート、パケット数など)を提供します。なお、これらの情報は1分ごとに更新されます。

この機能によって、二つのサイト(例えばオンプレミスと VMware Cloud on AWS など)に配置されたアプライアンスでそれぞれ統計情報が確認できるので、管理者は対象ネットワークのステータス確認や状況診断で活用できます。

図4  Network Extension Details の画面サンプル

 

 

In-Service Upgrade for Network Extension Appliances

VMware HCX の利用環境において、ネットワーク拡張サービスは仮想マシンの移行中だけではなく移行後も使用されることがあります。今回のリリースで、VMware HCX のアップグレード処理に伴うネットワーク拡張サービスのダウンタイムを最小限に抑える機能が追加されました。それが「In-Service Upgrade for Network Extension Appliances」です。

ネットワーク拡張を実現するためには、サイト間にそれぞれ展開されたアプライアンス同士でネットワーク拡張のためにトンネル接続を確立する必要があります。この時、アプライアンスは一つのアップリンクの IP アドレスと NIC を使用して接続します。

これまでの VMware HCX における標準アップグレード方式では、両サイトのアプライアンスを停止(同時にサイト間のトンネル接続がダウン)したあと、新しいアプライアンスを起動して、サイト間でトンネル接続を再確立する必要がありました。このプロセスに伴い、ダウンタイムが発生していました。

一方、今回新しく追加された In-Service Upgrade for Network Extension Appliances によるアップグレード方式では、既存のアプライアンスとは別に新しいアプライアンスを展開し(この時、両サイトの新しいアプライアンス間でトンネル接続を確立しておき)、切り替える処理を行います。アップグレードを実行する時、既存のトンネルから新しいトンネルに切り替えることで、これまでの方法よりもダウンタイムやパケットロスを最小限に抑えることができます。

この In-Service Upgrade for Network Extension Appliances は、HCX 4.0 以降のリリースでのみ使用可能です。尚、HCX 4.0 以降でも従来の標準アップグレード方式は引き続き利用できます。これからもディフォルトのプロセスは標準アップグレード方式であるため、 In-Service Upgrade for Network Extension Appliances を使用する場合は、明示的に選択する必要があります(図5)。

図5  In-Service Upgrade for Network Extension Appliances の画面サンプル

 

 

NSX Security Tag Migration

今回新しく追加された「NSX Security Tag Migration」機能により、クラウド移行において VMware NSX のセキュリティタグが移行できるようになりました。移行元で VMware NSX Distributed Firewall を使用している場合、移行先の NSX 環境にセキュリティタグを移行できるので、移行先でのセキュリティポリシーが定義しやすくなります。

タグの定義が移行先に存在しない場合、VMware HCX は移行先の NSX にセキュリティタグを作成します。 NSX Security Tag Migration は、HCX vMotion や Bulk Migration、Replication-Assisted vMotion の移行タイプで利用できます。NSX Security Tag Migration は、移行元や移行先に関わらず NSX 環境として NSX-V および NSX-T をサポートしています。尚、本機能の詳細は、YouTube 「VMware HCX Migration of NSX Security Tags」をご覧ください。

図6  NSX Security Tag Migration の画面サンプル

 

 

まとめ

VMware HCX は、クラウド間でワークロードのモビリティを提供し、移行作業をシンプルにすることを目標として、今後も革新的な開発を継続します。データセンターの統合やパブリッククラウドの採用など、VMware HCX はあらゆる場面で活躍します。是非ともご活用ください。

 

 

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