2021年10月より、VMware Cloud on AWS の標準サービスの一部として「VMware Tanzu Kubernetes Grid」「VMware Tanzu Mission Control Essentials」が利用できるようになりました。VMware Cloud on AWS のユーザーは、追加料金を払うことなくこれらのサービスを利用できます。今回は、この新しいサービス「VMware Cloud with Tanzu Services」の概要について解説します。

 

 

目次

 

 

 

VMware Cloud with Tanzu Services とは

VMware Cloud on AWS は、VMware が管理する Software-Defined Data Center (SDDC) をクラウドサービスとして提供しています。このサービスインフラに VMware Tanzu を実装し、標準サービスとして提供するものを「VMware Cloud with Tanzu Services」と呼びます。本サービスを活用すれば、クラウドシフトとアプリケーションのモダナイゼーションを同時に実行できます(図1)。

VMware Cloud with Tanzu Services は、2021年10月にリリースされた SDDC バージョン(SDDC 1.16)を適用した環境で利用できます。

図1 VMware Cloud with Tanzu Services の運用イメージ

 

 

 

VMware Cloud with Tanzu Services に含まれるも

VMware Cloud with Tanzu Services には、現時点で Tanzu Kubernetes Grid と Tanzu Mission Control Essentials が含まれます(図2)。これらの製品とサービスは、VMware Cloud on AWS の標準サービスとして提供されるため、追加料金を支払うことなく利用できます。

図2 VMware Cloud on AWS に実装された Tanzu Services

 

Tanzu Kubernetes Grid

Tanzu Kubernetes Grid は、VMware が提供する Kubernetes のディストリビューションです。Kubernetes クラスタの作成からアップデートなどクラスタのライフサイクルをセルフサービスで管理することができる Kubernetes as a Service と呼べるものです。今回 VMware Cloud on AWS の標準サービスとして実装されたものは「vSphere with Tanzu」と呼ばれるものと同等です。但し、現時点ではサポートされる動作環境や機能などがオリジナルの vSphere with Tanzu とは若干異なりますのでご注意ください。vSphere with Tanzu との違いや動作環境に関する詳細は、ドキュメント「VMware Cloud on AWS Operation Guide」(英語)をご覧ください。

 

Tanzu Mission Control Essentials

Tanzu Mission Control は、Kubernetes クラスタを統合的に管理できるクラウドサービスです。このサービスには、Kubernetes クラスタが動くクラウドインフラに左右されずに統合管理するための最適な機能が実装されています。さらに、Kubernetes 自体のライフサイクル管理を容易に実行できる仕組みやセキュリティを強化する機能が備わっています。Kubernetes をマルチクラウドで統合管理する際に最適なサービスと言えます。今回 VMware Cloud on AWS の標準サービスとして追加されたものは、Tanzu Mission Control の Essentials バージョンです。詳細は、ドキュメント「Tanzu Mission Control Concept」(英語)をご覧ください。

 

 

 

主なユースケース

VMware Cloud with Tanzu Services のユースケースは主に3つ挙げられます(図3)。VMware Cloud on AWS の SDDC で Tanzu Kubernetes Grid を有効化するだけでエンタープライズ向けの Kubernetes 環境が利用できるため、これから本格的に Kubernetes の導入を検討している企業に最適です。

図3 VMware Cloud with Tanzu Services のユースケース

 

スムーズな Kubernetes の採用

新しいビジネス要求に対応するため、アプリケーションのモダナイゼーションを推進する一環で Kubernetes を採用する企業が増えています。VMware Cloud with Tanzu Services は、既存の仮想化環境を維持したままスムーズに Kubernetes プラットフォームを採用できる仕組みを提供します。Kubernetes 自体の初期セットアップは自動化されているため、直ぐに Kubernetes プラットフォームを活用したいという企業に最適です。

 

仮想マシンとコンテナ環境の共存

VMware Cloud with Tanzu Services は、VMware Cloud on AWS 上で Kubernetes プラットフォームを利用できる仕組みを提供します。インフラ管理者は従来通り仮想マシンの管理とともに、Kubernetes で利用するリソースやセキュリティを管理できます。一方、アプリケーション開発者は与えられたリソース空間の中で、コンテナ化されたアプリケーションをセルフサービスで展開できます。ガバナンス強化やセキュリティ面を配慮して、従来のアプリケーションとモダンなアプリケーションを共通の SDDC 環境で運用したいという企業に適しています。

 

マルチクラウドの統合管理

VMware Cloud with Tanzu Services は、VMware Cloud on AWS をはじめとした VMware Cloud サービスのサービスインフラで利用できます。一方、VMware Tanzu Mission Control Essentials は、Kubernetes クラスタを一元的に管理できるクラウドサービスです。この Tanzu Mission Control というサービスの上位バージョンを購入いただくと、AWS や Azure などを含めたパブリッククラウドで提供されている Kubernetes サービスのクラスタも管理対象に含めることができるようになります。これから Kubernetes を本格導入する企業は、初期段階からこのような仕組みを運用に取り込むことでモダンなアプリケーション運用を効率化できるようになります。その最初の一歩として VMware Cloud with Tanzu Services を活用すれば、さらに導入までの時間やコストを大幅に節約できます。

 

 

 

簡単操作で準備できる

VMware Cloud with Tanzu Services を利用する最初のステップは、Tanzu Kubernetes Grid の環境構築です。環境構築と言っても多くのプロセスは自動化されているため、Kubernetes の高度なスキルは必要ありませんし短時間で終わります。

始めに「Supervisor Cluster」を展開します。Supervisor Cluster とは、Tanzu Kubernetes Grid のコントロールプレーンの役割を果たす管理用 Kubernetes クラスタです。vSphere with Tanzu 環境では、この管理用 Kubernetes クラスタが vSphere に統合されており、Supervisor Cluster と呼んでいます。

操作はとても簡単です。SDDC の管理インターフェイスである「VMC コンソール」から「Tanzu Kubernetes Grid の有効化」を選択します(図4)。その後、Supervisor Cluster と ワークロード用 Kubernetes クラスタで使用する4つの CIDR を入力するだけで初期セットアップは完了します。

図4 Tanzu Kubernetes Grid 有効化の画面サンプル

 

Supervisor Cluster は、20〜30分ほどで自動的に作成されます(図5)。次に「vSphere Namespace」を構成します。vSphere Namespace は、SDDC 内に構成されるクラスタ(vSphere Cluster)の上で Tanzu Kubernetes Cluster が使用できるインフラのリソースやアクセス権などを定義するものです。

図5 Supervisor Cluster と vSphere Namespace

 

クラウド管理者は、vSphere Namespace を定義することで Kubernetes クラスタに対するユーザーのアクセスを管理できます(図6)。同じく、Kubernetes クラスタが利用できるインフラリソース容量もコントロールできます。

図6 vSphere Namespace の設定画面サンプル

 

Supervisor Cluster の作成と vSphere Namespace の定義が完了したら、Tanzu Mission Control にアクセスして、先ほど展開した Supervisor Cluster を管理対象として登録します(図7)。これによって Tanzu Mission Control から VMware Cloud on AWS 上の Tanzu Kubernetes Grid を管理できるようになります。

図7 Tanzu Mission Control と Supervisor Cluster

 

ここまで来ると、Tanzu Mission Control から Kubernetes クラスタ(Tanzu Kubernetes Cluster)をセルフサービスの要領で作成できます(図8)。その後は、Kubernetes クラスタのライフサイクル管理も一元的に Tanzu Mission Control から操作できます。

一方、アプリケーション開発・運用担当者は、利用が許可された Kubernetes クラスタ上にアプリケーション(Pod)を展開できます。

図8 Tanzu Kubernetes Cluster の作成

 

さらに、VMware が提供する vRealize Cloud Management の各種サービスを併用すれば、より広範な領域を対象としたインフラとアプリケーションの統合管理・運用も実現できます(図9)。サービスの安定運用に努めるプラットフォームオペレーターは、これまで以上に効率的な運用を実現できます。

図9 vRealize Cloud Management サービスの併用による統合運用イメージ

 

 

 

クラウドシフトとモダナイゼーションを同時に実現

VMware Cloud on AWS は、VMware が SDDC 環境をクラウドサービスとして提供するものです。オンプレミスのデータセンターからワークロードを VMware Cloud on AWS に移行すれば、企業のビジネスに直接貢献しない仮想化インフラの管理と運用から脱却できます。その結果、インフラ管理者は「クラウド管理者」としてクラウド層での管理や運用業務に集中できるようになります(図10)。

図10 VMware Cloud on AWS の活用でクラウド管理者へシフト

 

さらに、VMware Cloud with Tanzu Services を併用すれば、レガシーなアプリケーションをクラウド上でコンテナ化することもできます(図11)。モダンなアプリケーションの新しい開発環境および本番環境としても利用できます。

図11 モダナイゼーションの促進

 

共通のクラウドインフラでアプリケーションを集約し、便利で使いやすいモダンな運用ツールとサービスを活用すれば、アプリケーション開発や運用を担当するチームを含め、それぞれの役割に集中できる環境が整います。VMware Cloud with Tanzu Services の活用によって、モダンなアプリケーションの運用に適した新しい組織へ変革しやすくなることが期待できます。

 

 

 

まとめ

VMware Cloud on AWS に実装された VMware Cloud with Tanzu Services は、企業のクラウドシフトとアプリケーションのモダナイゼーションを同時に実現できる環境を提供します。オンプレミスの VMware 環境でアプリケーションを運用している環境をクラウドへ移行させ、その環境を管理運用するスタッフのスキルを無駄にすることなく、クラウドベースの運用体制へシフトできます。さらに、アプリケーションのコンテナ化を始める環境として活用できます。是非お試し下さい。

 

 

 

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