Part4: VCFでハイブリッドクラウドを実現するには?
ー Back Number ー
#1 「VMware Cloud Foundation (VCF) 」 をご存知ですか
#2 VCFはどんなお客様向けの製品?
#3 自動セットアップの方法とは?
#4 VCFでハイブリッドクラウドを実現するには?
日本ヒューレット・パッカード(HPE)で仮想化やハイブリッドクラウドソリューションなどのプリセールスをしている片山倫哉(かたやまともや)です。
連載第4回は、ついに本連載のタイトルでもある「ハイブリッドクラウド」についてご説明していきたいと思います。VMware Cloud Foundation(VCF)を使って、ハイブリッドクラウドを実現するための方法です。
これまでのおさらいとして、まずはVCFのコンセプトから再確認してみましょう。
連載第1回では、VCFはハイブリッドクラウドを実現するための製品であることやVMware Cloud on AWS も実はVCFをベースとした共通技術(アーキテクチャー)で動いていることをお伝えしました。
共通の技術であれば、それがプライベートクラウド上であってもパブリッククラウド上であってもシームレスに連携できるまではイメージできるでしょう。
しかし、よく考えてみてください。
“共通の技術”というだけで簡単にハイブリッドクラウドを実現できるのであれば、みんな苦労しないですよね??
最近、お客様先に訪問した際に「ハイブリッドクラウドはどうやったらいいですかね?」とか、「どうやってオンプレミスとクラウドを使い分けたらいいですか?」などと聞かれることが増えてきました。お客様によって事情や状況が異なりますので一括りに言えませんが、ハイブリッドクラウドを実現するための前段階として、絶対に必要となってくることが1つあります。
それは、データセンター運用の標準化 です。
デジタルトランスフォーメーションを推し進めていこうとしている中で、データセンターで管理するモノの数や増加し続けるデータの運用に、データセンターの管理者は限界に近づいてきている状況はみなさまご存知のとおりかと思います。
自社のシステムは、その時々で購入した“継ぎ接ぎ”なシステムになってしまっている方も多いのではないでしょうか。しかも、そういうシステムに限って、独自の管理オペレーションが必要だったりするものです。
「◯◯さんに聞かないと運用方法がわからない」といった 属人化運用もこういう背景から生まれていきます。
また、日々の運用すら厳しい状況の中、会社の上層部がクラウドを導入することを決めてしまい、クラウド側の管理まですることになると、管理者は精根尽き果てることが容易に想像できてしまう―――。
精根尽き果てるだけだとまだマシで、日々の運用が回らなくなり、業務に支障がでることも出てきます。
容易なことではありませんが、長年培ってきたIT資産を管理するノウハウとは別に、運用面も含めデータセンターの標準化について考えるところからハイブリッドクラウドはスタートします。
◇ データセンター運用の標準化にはVCF + HPE Synergy ◇
ITシステムにおける標準化はアプリやAPIなどから様々なレイヤで必要になりますが、「仮想化インフラの標準化」の課題をマルっと解決できるのがVCFです。
但し、注意してください。単にVCFを導入しただけでは”標準化”されたとは言えません。運用の標準化で一番難しいのは “運用側のマインドチェンジ”と言われています。「今まではこうだったから~」という概念は捨てて運用していくことが重要です。
理解を深めるために、マインドチェンジできていない例とできている例を記載します。
マインドチェンジできていない場合
VCFを導入したにもかかわらず、運用フェーズにおいて「サーバー1台だけ個別にESXiのパッチを適用したい」などの要望に応えてしまう。
運用開始直後はVMware社の理想形(VMware Validated Design)になっていたものが、日時の経過と共にかけ離れていき、結局は従来のようなサーバー単位に個別のオペレーション運用になってしまいます。
VMware Validated Design
https://www.vmware.com/jp/solutions/software-defined-datacenter/validated-designs.html
マインドチェンジできている場合
VCF導入後、運用フェーズにおいても個別管理は許容しない。
特別な運用を許容すると、標準化から離れることになりますので、管理者には“我慢”が必要になってきます。
VCFでは個別管理の代わりに、全体をVMware SDDC Managerで統合管理することで運用の標準化が可能です。
具体的な例が「パブリッククラウド」です。パブリッククラウドでは1台1台のサーバーに対して「パッチ適用しますね?」という確認は行わないですよね。事前に予定を告知してくれますが、クラウド事業者側で一括してバージョンアップされます。この運用スタイルをオンプレミス側でも適用していくと考えると理解しやすいのではないでしょうか。
◇散らばっている個別システムをVCFへ統合◇
ハイブリッドクラウドの導入の前に、既存のオンプレミス環境を標準化するため、まずVCFを構築します。
次にデータセンターや様々な場所に設置している既存のvSphere基盤や仮想化基盤を新しく構築したVCF環境へ移設していきます。
VCF環境ではVMware SDDC Manager による統合管理が可能ですので、移設していくことにより次々と仮想化基盤の運用が統合されてラクな運用になっていきます。
◇ハイブリッドクラウド環境の構築◇
オンプレミス環境の仮想化基盤のVCF環境への統合が完了すると、ついにハイブリッドクラウドを検討する段階になります。
ハイブリッドクラウドを実現することができたときのイメージ図です。
具体的にどのような技術を駆使してハイブリッドクラウドを実現するかについて、仮想マシンをハイブリッドで管理するという観点でVMware社からは主に2つの方法が用意されています。
–Hybrid Linked Mode (HLM) による管理
–VMware HCX を使った相互接続
◇Hybrid Linked Mode (HLM) による管理 ◇
この方法は、VMware Cloud on AWS 上のvCenter Serverとオンプレミスの vCenter Single Sign-On をリンクさせる手法です。
1つのvSphere ClientのWeb画面からオンプレミス、クラウド、どちらの環境も管理することができ、仮想マシンの移行もシームレスに実現することが可能です。
Hybrid Linked Mode の詳細については VMware Docs にも記載されています。
Hybrid Linked Mode
https://docs.vmware.com/jp/VMware-Cloud-on-AWS/services/com.vmware.vsphere.vmc-aws-manage-data-center.doc/GUID-91C57891-4D61-4F4C-B580-74F3000B831D.html
◇VMware HCX を使った相互接続◇
聞き慣れない名前かもしれませんが、VMware HCXはオンプレミスのVMware vSphere環境とVMware vSphere ベースのクラウド間をシームレスに接続することができるものです。
驚くべき点は、なんと、既にジェネラルサポート終了を迎えているvSphere 5.5 から最新のvSphere まで対応しているところです。古いvSphere上で稼働中の仮想マシンもハイブリッドクラウドの対象です!適材適所な場所で仮想マシンを稼働させることができます。これぞハイブリッドですよね。
*一部機能制限がありますが、VMware HCX はvSphere 5.1にも対応
VMware HCX について
https://cloud.vmware.com/jp/vmware-hcx/faq#general
それぞれのメリットをまとめて比較すると以下の様になりますので、用途に応じて採用をご検討頂ければと思います。
HLM :
- デプロイに必要なリソースが少ない
- VSSのみで実装可能
- Live Migrationの場合、ネットワークに低遅延が必要 (100ms RTT, 250Mbps)
HCX :
- 標準でL2延伸を実装可能
- WAN最適化の機能を実装可能
- Live Migrationの場合でも、ネットワーク遅延の制約が少ない(100Mbps)
- オンプレミス側のvSphereバージョンの制約が緩い
今回は、ハイブリッドクラウドを実現するための心構えや方法について記載しました。
是非みなさまもハイブリッドクラウドを実現するための製品であるVCFと、VCFに最適なプラットフォームである HPE Synergy をご検討ください。
片山 倫哉(かたやま ともや)
日本ヒューレット・パッカードのプリセールス部門に所属するプリセールスコンサルタント。
前職ではプログラマー、HPEでは仮想化のサポートエンジニアを経験後、プリセールス部門に転身。
技術が好きでVMware製品やMicrosoft製品の提案や、ProLiantサーバーを中心としたハイブリッドクラウドの提案などに従事。