I. はじめに:データセンターにおけるDPUの出現
近年、データセンターは、効率、性能、セキュリティに対する高まる要求に応えるため、大きな変革期を迎えています。この変化を推進する重要なイノベーションのひとつが、データ処理ユニット(DPU)であり、従来のCPUやGPUからデータ処理タスクをオフロードし、システム全体のパフォーマンスを向上させるように設計された特殊なハードウェアコンポーネントになります。
仮想化およびクラウドコンピューティングソリューションのリーディングプロバイダーであるVMwareは、DPUの可能性を認識し、その能力を活用することを目的としたさまざまなソリューションを開発しています。Project MontereyやSmartNICを含むこれらの製品は、VMwareの既存の製品ポートフォリオとシームレスに統合できるように設計されており、DPUのパワーを現代のデータセンターやプライベートクラウド環境にもたらすものになります。
このブログでは、VMwareのDPUソリューションについて包括的かつ分かりやすく解説し、データセンターにおけるDPUの重要性を初心者に理解してもらうことを目的としています。DPUの進化、VMwareの提供するソリューションの詳細、VMwareのエコシステムへの統合、そしてこれらのソリューションの様々な使用例と利点について説明します。さらに、DPUの将来と、この業界を形成する上でのVMwareの役割についても触れます。この記事を読み終わる頃には、読者はDPUの重要性と、データセンター関係者にとってDPUがもたらす機会について、しっかりと理解することができるでしょう。
II. データ処理装置(DPU)の登場:データセンターの変革へ
長年、データセンターでの処理の主役は、CPU(中央演算処理装置)とGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)でした。しかし、これらには特定のタスクを処理する際の限界があります。CPUは汎用コンピューティング向けに設計されており、多様なワークロードをこなせますが、特定のデータ集約タスクには効率的でない場合も。一方、GPUは並列処理が得意で、グラフィックスや特定の計算に適していますが、他の種類の負荷には向いていません。
そんな中、新たなプロセッサーであるDPUが登場しました。CPUやGPUからデータ処理タスクを引き継ぎ、システム全体の性能を最適化することが目的です。DPUは、ネットワーク、ストレージ、セキュリティ関連タスクに特化しており、これらを汎用プロセッサーよりも効率的に処理します。データセンター・アーキテクチャにDPUを組み込むことで、企業はパフォーマンス、スケーラビリティ、セキュリティを向上させ、リソースの利用率を最大化することができます。このDPUの登場により、データセンターの構成が大きく変わりつつあります。従来のCPUやGPUの役割を補完する形で、DPUはデータセンターに新たな価値をもたらし、企業により効率的で柔軟なインフラストラクチャを提供することが期待されています。
III. VMwareのDPUソリューション:Project Monterey およびvSphere Distributed Services Engine (DSE)
VMwareのProject Montereyは、データセンターやクラウド環境を変革するための野心的な試みです。このプロジェクトは、DPUを活用して性能やセキュリティを強化し、仮想化やコンテナ化環境のスケーラビリティを向上させています。Project Montereyは、VMware製品群(Cloud Foundation、vSphere、NSX、vSANなど)とDPUを統合することで、顧客に効率的で安全なインフラを提供し、最新のアプリケーションや新技術の需要に対応できるようになります。
VMwareのDPUソリューションの鍵となるのはSmartNICです。これらDPU搭載デバイスは、ネットワーク、ストレージ、セキュリティタスクを高速化し、CPUやGPUの負担を軽減します。
図1 Smart NIC とDPU
データセンターやクラウドインフラにSmartNICを導入することで、企業はパフォーマンス向上、レイテンシ低減、セキュリティ強化などの利点を享受できます。VMwareのDPUソリューションは、vSphere Distributed Services Engine (DSE) という製品で提供されています。vSphere DSE は、CPU から DPU に機能をオフロードして仮想インフラストラクチャをモダナイズするソリューションです。これらのサーバや DPU の組み合わせでは、vSphere DSE を使用して、DPU 上で NSX のネットワークとセキュリティのサービスを実行することができます。vSphere 分散サービスエンジンは、vSphere ESXi8 およびVMware NSX 4.0 Ent+から利用可能な新しい機能であり vSphere ESXi ホスト上の仮想マシンやコンテナに対して様々な機能が提供できることはリリースノートで公開されています。
NSX 4.0.0.1 リリースノート
NSX 4.1.0 リリースノート
NSX 機能とライセンス
代表的な機能は以下となります。
- L2/L3 オーバーレイネットワークおよびVLANベースセグメント
- IPv4/IPv6ルーティング
- NIC チーミング
- 分散ファイアウォール
- 分散IDS/IPS(NSX4.1ではTech Preview)
- トレースフロー/IPFIX/パケットキャプチャ/ポートミラーリング
図2 DPU/Smart NIC により進化する仮想インフラアーキテクチャ
VMware DSE 機能を提供する主要な DPU のベンダーは以下の通りです。
- AMD / Pensando (25Gb and 100Gb NIC models)
- NVIDIA Bluefield-2 (25Gb NIC models only)
- Intel (将来サポート)
またVMware DSE をサポートする主要な サーバベンダーは以下となりますが、詳しくは弊社営業またはパートナー企業様へお問い合わせください。
- Dell EMC PowerEdge
- HPE ProLiant
- Lenovo (将来サポート予定)
IV. VMwareのDPUソリューションによるパフォーマンス向上: Redisデータベースアプリケーションの事例
データセンターやクラウド環境でのパフォーマンス向上は、企業にとって重要な課題です。VMwareのDPUソリューションがどの程度の効果を発揮するのか、具体的な事例としてRedisデータベースアプリケーションを使ったパフォーマンス検証を紹介します。
Redisデータベースとは
Redisは、オープンソースのインメモリデータ構造ストアであり、データベース、キャッシュ、メッセージブローカーとして使用されることが多いです。高速なパフォーマンスとスケーラビリティを実現するため、多くの企業やアプリケーションで採用されています。
パフォーマンス検証
DPUの有無によるパフォーマンスの違いを評価するため、Redisデータベースアプリケーションを対象にテストを実施しました。結果として、以下の効果が確認されました。
- 36%のトランザクションレート向上: 解放されたCPUコアと優れたキャッシュ機能を活用し、より多くのワークロードトラフィックを処理することができました。これにより、トランザクションレートが36%向上しました。
- 27%のレイテンシ低減: DPUソリューションの導入により、レイテンシが27%低減されました。これにより、アプリケーションの応答性が向上し、ユーザーエクスペリエンスが改善されることが期待されます。
- SR-IOV並みの高いパフォーマンス: 仮想環境が持つ、vMotionやDRSなどの利点を損なうことなく、SR-IOV並みの高いパフォーマンスを実現しました。これにより、インフラストラクチャの運用効率が向上するとともに、高いパフォーマンスを維持できます。
図3 RedisデータベースアプリケーションのDPUによるパフォーマンス向上
この事例からわかるように、VMwareのDPUソリューションは、データベースアプリケーションのパフォーマンスを大幅に向上させる効果があります。このような結果は、Redisデータベースだけでなく、他のアプリケーションやワークロードにも適用される可能性があります。なおこの検証データがリリース前のエンジニアリングビルドでの結果となるため、GAリリースや今後のリリースではさらなるパフォーマンス向上が期待されます。
V. ヴイエムウェアのDPUソリューションの使用事例とメリット
VMwareのDPUソリューションの主な利点の1つは、データセンターやクラウド環境におけるパフォーマンスのボトルネックに対処する能力です。ネットワーク、ストレージ、セキュリティのタスクをCPUからDPUにオフロードすることで、企業はCPUの処理負担を軽減し、パフォーマンスの向上とレイテンシの低減を実現できます。
例えば、大量のネットワークトラフィックとストレージI/Oを伴うことが多い仮想化やコンテナ化のワークロードは、これらのタスクを処理するためにDPUを採用すると、パフォーマンスが大幅に改善されます。これにより、組織は同じインフラ上でより多くのアプリケーションやワークロードを実行し、リソースの利用率と効率を最大化することができます。
エッジコンピューティングやモノのインターネット(IoT)アプリケーションは、低レイテンシ処理やリアルタイムのデータ分析が求められるため、最新のデータセンターではますます重要性が増しています。エッジコンピューティング環境にDPUを組み込むことで、企業はエッジでより効率的にデータを処理し、中央のデータセンターへのデータのバックホールの必要性を最小限に抑えることができます。その結果、待ち時間の短縮、応答時間の短縮、アプリケーションの性能向上が実現し、これらはすべてミッションクリティカルなIoTアプリケーションにとって極めて重要です。
人工知能(AI)、機械学習(ML)、ビッグデータ分析などの新しいテクノロジーやワークロードは、大きな計算資源を必要とし、複雑なネットワークやストレージのタスクを伴うことも少なくありません。VMwareのDPUソリューションは、CPUに負荷のかかるタスクをDPUにオフロードすることで、CPUリソースをより負荷の高い計算タスクに解放し、こうしたワークロードをサポートするのに適しています。
ヘルスケアでは、医療画像や遺伝子解析などの分散ワークロードにおいて、DPUを使用することでCPUの負荷を軽減し、スループットや遅延を改善できます。例えば、vSphere DSEを使ってDPU上で仮想化やコンテナ化された医療アプリケーションを実行することで、高速かつ安定したデータ処理が可能になります。公共では、セキュリティやコンプライアンスなどの要件に対応するために、DPUを使用することで暗号化やファイアウォールなどの機能を高速化し、攻撃からデータセンターを保護できます。例えば、NSXを使ってDPU上で暗号化やファイアウォールサービスを実行することで、データセンタートラフィック全体に対して透過的かつ効率的なセキュリティポリシーが適用できます。通信キャリアでは、5Gやエッジコンピューティングなどの新しいサービスに対応するために、DPUを使用することで仮想化やコンテナ化などの機能を強化し、柔軟性や拡張性を高められます。例えば、vSphere DSEとNSXを使ってDPU上で仮想マシンやコンテナベースのネットワークファンクション(VNF/CNF)を実行することで、低レイテンシーかつ高可用性な通信サービスが提供できます。
まとめると、VMwareのDPUソリューションは、パフォーマンスのボトルネックへの対処、エッジコンピューティングやIoTアプリケーションの強化、新しいテクノロジーやワークロードのサポートなど、さまざまな使用ケースにおいて多くのメリットを提供します。これらのソリューションを活用することで、企業はより効率的でスケーラブル、かつ高性能なデータセンターおよびクラウドインフラを構築し、今日のデジタル社会の課題に対処するためのより良い環境を整えることができます。
VI. おわりに
このブログでは、データセンターにおけるDPUの出現について説明し、VMwareのDPUソリューションの詳細について解説しました。DPUの進化を検証し、現代のデータセンターにおけるDPUの重要性とCPUやGPUとの違いを強調しました。Project MontereyやSmartNICsなど、VMwareが提供する製品を詳しく見ることで、それらが提供する主要な機能と利点を理解することができました。
さらに、VMware Cloud FoundationにおけるDPUの役割、ネットワークインフラの強化、データセンターのセキュリティとパフォーマンスの向上など、VMwareのエコシステムへのDPUの統合について説明しました。また、パフォーマンスのボトルネックへの対処、エッジコンピューティングやIoTアプリケーションのサポート、新しいテクノロジーやワークロードの実現など、VMwareのDPUソリューションのさまざまな使用例やメリットについても解説してきました。
DPUテクノロジーとその環境における潜在的なアプリケーションを探求し続けることは、業界における競争力を維持するだけでなく、プロフェッショナルとしての成長にも貢献します。データセンターを取り巻く環境が進化を続ける中、VMwareのDPUソリューションを使いこなすことは、今後待ち受けている課題と機会を乗り越えるための貴重な資産となるでしょう。