みなさま、こんにちは!マイクロソフトの前島です。
今回は、Azure VMware Solution (AVS) の国内公開事例をもとに、日本のお客様が AVS を採用した理由や導入後の効果を紐解いていきます。
マイクロソフトの公開事例サイト
マイクロソフトでは、国内外さまざまなお客様でのクラウド利用事例を https://customers.microsoft.com/ja-jp/ にて公開しています。 グローバルでは4,000以上、日本語事例だけでも 350 を超える事例が掲載されており、お客様がどのようにマイクロソフトの製品・サービスを活用されているかを参照できます。
本サイトは「業界」「製品」「組織の規模」などでフィルタリングもでき、Azure VMware Solution に特化した公開事例にも簡単にアクセスできます。
今回はこれらケーススタディのうち、日本のお客様三社の事例を、「背景」「主なポイント (*筆者 前島の主観)」「Why AVS?」という3つの視点で整理してみました。
1. BIPROGY 株式会社 様 (旧 日本ユニシス株式会社, 事例サイトでは事例公開時点での社名で掲載していますが、本記事では現社名で表記を統一します)
2. ニッセイ・ウェルス生命保険株式会社 様
3. 株式会社LIXIL様
1. BIPROGY 株式会社様
VMware vSphereによる仮想化基盤のクラウド移行にあたり、日本ユニシスが Azure VMware Solution(AVS)を選択した理由
BIPROGY 株式会社様は、日本で最も早い段階から AVS の利用を開始された一社であり、またマイクロソフトのパートナーとして Azure や AVS の導入展開支援を行うパートナー様としての顔も持ち合わせています。本事例は、エンドユーザーとしての社内システム移行プロジェクトです。
【背景】
BIPROGY様は、「HITS」と呼ばれる仮想基盤システムをオンプレミスのデータセンター上に構築し、各部門・部署にサービス提供していましたが、近年では運用負荷増大などの問題が顕在化し、ハードウェアのEOLを機にサービスの終了も視野に入れていました。 しかしユーザー部門からの評判が高く、サービスの継続を検討することになりました。その検討時に挙がった候補のひとつが、HITS 同様の VMware ソリューションによるプライベートクラウドサービスを維持しつつ、運用保守に関わる負荷の軽減も期待できる AVS でした。
【主なポイント】
- オンプレよりも高い費用対効果 HITS サービスの継続検討にあたり、既存環境の継続、つまりオンプレミスのままハードウェア更改を行うことも候補にありました。そのためオンプレ継続とクラウド移行での費用対効果を比較検討し、クラウドサービスを採用するほうがコストの削減や移行期間の短縮を見込めるという結論を得た上で AVS を採用いただいています。 なおクラウド移行のサイジングには、Azure Migrate と VMware Aria Operations (旧製品名:VMware vRealize Operations) の2つを活用しています。
- 既存環境よりも高いパフォーマンス 移行後のベンチマークも実行。AVS 上で既存環境以上の性能 (30%の CPU 性能向上、既存環境以上の IOPS)が出ることを確認しています。
- クラウド移行におけるすべての要件に対応 クラウド移行において挙げられた下記3つに要件を、AVS ですべて満たせることを確認いただきました。
- ハードウェアに対する運用負荷の軽減とデータセンターの運用保守コスト削減
- 現状の仮想サーバー群の運用・管理体制の維持
- 移行に関する利用者の負荷・リスクの軽減
【Why AVS?】
- 既存環境からの運用継続性と移行容易性 AVS では使い慣れた vSphere Client や PowerCLI など既存の運用の仕組みやスキルを継続できる上、標準搭載されている VMware HCX を活用することで既存環境からの短期間かつ互換性を確保したままでの移行を実現できます。
- Azure PaaS の利活用による利便性向上 他の Azure サービスも活用し、運用基盤の強化やコスト削減を実現。たとえば Azure Recovery Service によるバックアップデータの保管により、コスト削減を実現しています。
- マイクロソフトからの最新情報やテクニカルアドバイスの提供 プロジェクト立ち上げ当初からマイクロソフトとの定期的なミーティングで問題解決に向けた議論などを実施し、想定通りのスムーズな移行作業を実現しました。
なお BIPROGY様は日本マイクロソフトのパートナーでもあり、自社基幹システム (HITS) の AVS 移行におけるノウハウや VMware 製品の構築・保守運用の経験を基に、AVS への移行支援や構築を行うサービスを展開しています。 詳細はプレスリリースを参照いただくか、BIPROGY 様まで直接お問い合わせください。
2. ニッセイ・ウェルス生命保険株式会社様
クラウド化のファーストステップとして Azure VMware Solution(AVS)を導入、ニッセイ・ウェルス生命保険が描くクラウドジャーニーとは
ニッセイ・ウェルス生命保険様も、日本でのサービス開始直後から AVS 導入に着手いただいた一社です。「持続的・安定的な発展のための整備」という中期経営計画実現に向けてITインフラのクラウド移行を決断し、マイクロソフトのフルマネージドサービスである AVS を採用いただきました。
【背景】
ニッセイ・ウェルス生命保険様では、以前よりシステムのクラウド移行を検討されていましたが、あまり進んでいない状況でした。そこでクラウド移行のコストシミュレーション等を実施し、移行のメリットが高いことを再確認したうえで移行プロジェクトの本格検討に入りました。移行にあたって重視された点が「既存のアプリケーションを変更することなくクラウド化を推進できること」であり、既存システムとの親和性が高い AVS が採用されました。
【主なポイント】
- 段階的なクラウド移行 将来的なネイティブクラウド環境への移行を見据えたロードマップを描く一方、パートナーである TIS とともに様々なアプローチを試算した結果、段階的にクラウド移行する方法が最も効果が高いことを確認。この段階的移行を実現するファーストステップとして、AVS を活用いただいています。 併行して一部業務システムの IaaS 移行や、DaaS である Azure Virtual Desktop (AVD) の活用も進められています。
- 既存システムとの高い親和性 AVS で利用可能な HCX L2延伸機能を活用し、既存システムのクラウド移行を実施。IPアドレスの変更等も不要なため、無停止・無障害でのスムーズな移行を実現しています。
- レガシーOSのセキュリティ強化 AVS を含む Azure 環境では、サポート期限を過ぎたOS・アプリケーション (Windows Server 2008, SQL Server 2008 等) に対する拡張セキュリティ更新プログラム (ESU) が無償提供されます。継続利用が必要なレガシーシステムのセキュリティを、追加コストをかけることなく確保できます。
【Why AVS?】
- 既存のアプリケーションを変更することなくクラウド化を推進できること 『業務を止めず』『サーバーを止めず』にシステムのクラウド移行を行うことが命題であり、L2 延伸を含む AVS の機能活用によって、オンプレミス環境にあるサーバーの IP アドレスを変えずに移行できた点を高く評価いただいています。
- リソースの柔軟な追加・拡張によるデータセンター関連コストの最適化 AVS では ESXi ホストの追加(拡張)も 30 分程度でシステムに影響を与えることなく行うことができ、ハードウェアの調達等に係る時間やコストを大幅に削減。データセンターのコスト削減や仮想基盤の運用・保守に費やす人的リソースの削減につながっています。
- マイクロソフトが提供するサービスとしての既存システムとの高い親和性 ニッセイ・ウェルス生命保険では Windows Server やSQL Server、Office 365 などマイクロソフト製品を数多く利用しており、これらとの高い親和性や、他社製のクラウドよりも高いコストメリットが出ることを評価いただいています。特に ESU の無償提供により、コストを抑えてレガシー OS を継続稼働できることが、AVS 採用の要因になりました。
なお、ニッセイ・ウェルス生命保険様の AVS 導入事例は、VMware のサイトでも公開されています。 マイクロソフトとは異なる角度からインタビューが行われているところもありますので、ぜひ併せてご参照ください。 IT戦略の一環としてクラウド化に取り組むニッセイ・ウェルス生命が Azure VMware Solution を採用した理由とは
3. 株式会社 LIXIL 様
老朽化した仮想基盤環境をマルチクラウドの選択枝の一つとして Azure に移行、LIXIL が見据える柔軟かつ効果的なマルチクラウド戦略とは
株式会社 LIXIL 様はマルチクラウド化を基本方針として定めており、先行して利用を開始していた他クラウドサービスがある中で、移行先の一つとして AVS を採用いただきました。現在も老朽化した VMware vSphere 仮想基盤からの移行が順次進められており、2025 年 3 月までに同社が運用している数千におよぶ VM の AVSへの移行を完了させる予定です。
【背景】
株式会社 LIXIL様は2011 年に5 社が統合して誕生したという背景もあり、導入時期によって世代が異なる仮想基盤が複数の拠点に点在し、老朽化したレガシーシステムへの対応が急務になっていました。そこで、これら仮想環境を構築している環境をクラウド移行するプロジェクト「VCLP(VMware Cloud Lift Project)」を立ち上げました。VCLP の第 1 ステップを「オンプレからの脱却を優先し、パブリッククラウドに移行する」ことと位置付け、その移行先の一つとして AVS を採用いただきました。
【主なポイント】
- マルチクラウド化 LIXIL様は、将来的に特定のクラウドサービスにロックインされてしまうリスクを防ぐため、「マルチクラウド化」を基本方針としています。すでに他社のクラウドサービスをご利用中でしたが、移行元の環境を共有するなどの工夫を行いマルチクラウドプラットフォームを実現。それぞれのサービスの特徴を活かした使い分けをされています。移行の対象となった VMware vSphere の仮想環境では Windows Server が数多く稼働しており、これらの多くが AVS に移行しています。
- 自立自走を前提としたプロジェクト 本プロジェクトは内製化を見据えた取り組みで、自立自走を前提に進められています。マイクロソフトは、そのためのお手伝いをさせていただく立場で、プロジェクトメンバーに対するワークショップやハンズオンなどによるスキルトランスファーを実施し、内製化のご支援をさせていただきました。
- Azureサービスの活用 マルチクラウド化を進める一方で、コストを抑えながら異なるクラウドサービスの統合管理を実現する仕組みにも着手されています。たとえばバックアップの仕組みには Azure の Blob ストレージを活用しており、クラウドストレージの柔軟性を享受いただいています。
【Why AVS?】
- VMware vSphere 環境を提供するフルマネージド・サービス マルチクラウドのグランドデザインを策定する中で洗い出されたさまざまな課題(レガシーシステムに対する投資の抑制、レガシー OS 対策、IP アドレスの継続利用、エンドユーザーへの業務に対する影響の最小化、システム担当の負荷低減、コスト削減)に応えられるのが、マネージドサービスとして仮想基盤を提供する AVS でした。
- Azure/AVS ならではのライセンスコスト優位性 移行対象の VMware vSphere 仮想環境では Windows Server が数多く稼働しており、SA(ソフトウェアアシュアランス)の特典である『Azure ハイブリッド特典』を活用することで Windows Server / SQL Server のライセンスを追加購入することなく移行が可能になります。また、Windows Server 2008/2012などに無償で提供される拡張セキュリティ更新プログラム (ESU) も、セキュリティの強化とコスト削減の両立につながります。
- マイクロソフトのプレミアムサポートによる支援 自立自走を進めるLIXIL様に対して、マイクロソフトはお客様の要望に沿う形で、知識のトランスファーを中心に支援を行いました。支援の範囲は AVS そのものにとどまらず、Azure ネイティブサービスと連携したバックアップの仕組みの構築なども含まれ、今後のステップ(=クラウド環境を活用したモダンなシステムへの変革)への取り組みにもつながっています。
まとめ
今回は、Azure VMware Solution を活用いただいている国内三社の公開事例を紹介しました。その中でも複数社から出てきたキーワードを洗い出してみると、次のような点が AVS 活用のメリットとして浮かび上がってきます。
- 既存環境との高い互換性および移行容易性
- フルマネージドサービスによる運用負荷の削減
- 将来的なクラウド利活用に向けた Azureネイティブサービスとの連携
- Azure ハイブリッド特典や拡張セキュリティ更新プログラムによるコスト優位性
- マイクロソフトのプロジェクト支援体制
公開事例の数はまだ多いとは言えませんが、非公開のお客様を含めると業種業界問わず様々なお客様が AVS を活用されています。ぜひ事例も参考にしていただきつつ、皆様のシステムのクラウド化の選択肢として AVS をご検討ください。 また今後も更なる事例化の準備が進められていますので、どうぞお楽しみに!