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解説!オンプレミスから AVS への移行手段

みなさま、こんにちは! マイクロソフトの前島です。

前回は Azure VMware Solution (AVS) への移行を支援する無償アセスメントツール、Azure Migrate をご紹介しました。今回は次のステップとなる、実際の”移行手段”を取り上げます。

結論からお伝えすると、オンプレミスから AVS に移行するお客様の多くが、 VMware HCX を活用しています。HCX は AVS に標準で組み込まれており、かつ機能も豊富なため、多くのお客様にとって最有力な移行手段になります。
そのため今回は HCX を中心に解説しますが、他の移行方法にも最初に少しだけ触れておきます。

HCX 以外の移行手段が求められるケース

お客様環境やシナリオによっては、HCX 以外の手段が望ましいケースもあります。たとえば次のようなケースでは、他の手段を検討する余地があります。

  • 移行対象台数がごく僅かであり、HCX をセットアップするよりも工数を抑えられる
  • ネットワーク的に隔離された環境や小規模拠点などで、Azure (AVS) とネットワーク接続できない環境から移行したい
  • 移行元環境が HCX のシステム要件を満たせない
    (例:ホスティング環境から移行したいが、権限等の問題で HCX を導入できない)
  • 10を超える拠点にプライベートクラウドが分散しており、それらを一か所の AVS に移行・集約したい

最初の3つは、HCX をそもそも構成できない環境か、技術的には構成できても他の手段のほうが相対的なメリットが大きいケースです。

AVS では HCX が標準展開されますが、移行元になるオンプレミス側へのコンポーネント導入やネットワーク接続が必要です。何らかの理由で HCX の導入要件を満たせない場合は、他の手段を検討する必要があります。

具体的には、”バックアップ&リカバリー製品” や “レプリケーション製品” などの任意のサードパーティ製品を利用する方法が考えられます。または VMware vSphere による仮想マシンの可搬性を活かし、仮想マシンファイル(VMDK ファイルや OVF ファイル)をコピーするという原始的な方法が最善なケースもあります。コピーの方法は、ネットワーク転送、物理デバイスを用いた転送(Azure Data Box ファミリー)等、どのような方法でも構いません。最終的に、AVS 側のストレージ領域 (vSAN) まで持ってこれれば ok です。

実際あるお客様では、ネットワーク的に完全隔離された開発環境からの移行手段として、VMDK ファイルの持ち込みを選択されました。

なお vSAN データストアにファイルをコピーする場合、”vmdk ファイルをストリーム最適化形式に変換する” 等の要件があります。詳細は vSAN データストアへのファイルまたはフォルダのアップロード (vmware.com) に記載されています。

4つ目の”10を超える拠点”は、AVS / HCX 側の仕様による制限です。

AVS で提供される HCX は、Advanced エディションで最大3、上位 Enterprise エディションでは最大10のサイトとサイトペアリングすることができます。移行元が10を超える拠点に分散している場合、あらかじめオンプレミス側で移行元を集約するか、HCX 以外の仕組みを組み合わせて検討する必要があります。

以上のように、シナリオによっては HCX 以外の選択肢が望ましいケースもあります。とはいえ現実的には、AVS を採用いただいているお客様の大半が、HCX を主な移行手段として活用しています。そのため、ここから先は HCX に話を絞って紹介していきます。

HCX とは?


VMware HCX は、複数の VMware ソリューションによるプライベートクラウド間をシームレスに連携するために VMware が開発するサービスの総称です。ハイブリッドクラウドやクラウドマイグレーションを実現する上で求められる様々な機能(vMotion, L2延伸等)が組み込まれています。

多くの場合、オンプレミスの VMware vSphere環境と移行先のクラウド (AVS) を接続・移行する手段として利用いただいています。また、オンプレ/クラウド間に限らず、たとえば AVS と VMware Cloud on AWS 間でのハイブリッドクラウドを構成する手段としてもご利用可能です。

図1: VMware HCX によるオンプレミスとの
相互運用・移行

なお AVS では、AVS 自体のデプロイ時に HCX 関連コンポーネントもまとめて展開され、簡単に HCX を利用開始できるようになっています。

HCX のエディション

HCX には Advanced Enterprise の2つのエディションが存在します。AVS に標準で組み込まれているのは Advanced エディションです。ただし現時点では、Enterprise エディションも Preview という扱いで提供しており、追加料金なしでご利用いただけるようになっています。

サポート リクエストを送信することで、VMware HCX Enterprise アドオン (現在はプレビュー段階) を有効にできるオプションが用意されています。VMware HCX Enterprise Edition (EE) は、Azure VMware Solution でプレビューの機能/サービスとして使用できます。Azure VMware Solution 向けの VMware HCX EE はプレビュー段階ですが、無料の機能/サービスであり、プレビュー サービスの使用条件が適用されます。VMware HCX EE サービスが GA になると、請求が切り替わるという通知が 30 日前に届きます。サービスをオフにするかオプトアウトするオプションも用意されています。

価格 – Azure VMware Solution | Microsoft Azure より引用

エディションごとに提供される機能の一覧は VMware HCX Datasheet を参照ください。移行に関する機能は、次のセクションでもう少し詳しく解説します。

図2: HCX エディションごとの提供機能

HCX で提供される移行機能

HCX では、4つの移行手段が提供されています。これらはいずれか一つを選択しなければいけないというものではなく、仮想マシンごとに任意の方式を採用できるようになっています。

  vMotion Bulk Migration Cold Migration Replication Assisted vMotion
システム停止時間 無停止 切替時の電源OFF・ONの時間のみ停止 全停止 無停止
HCX バージョン Advanced Advanced Advanced Enterprise
オンプレバージョン vCenter 6.0+ vSphere 6.0+ vCenter 6.0+ vSphere 6.0+ vCenter 6.0+ vSphere 6.0+ vCenter 6.0+ vSphere 6.0+
仮想スイッチ vSS, vDS, Cisco Nexus 1000v vSS, vDS, Cisco Nexus 1000v vSS, vDS, Cisco Nexus 1000v vSS, vDS, Cisco Nexus 1000v
帯域要件 100Mbps以上 100Mbps以上
WAN 最適化 あり(圧縮、重複排除) あり(圧縮、重複排除) あり(圧縮、重複排除) あり(圧縮、重複排除)
L2 延伸 あり あり ※L2延伸なしでも可能(vDSは不要) あり ※L2延伸なしでも可能(vDSは不要) あり
仮想マシンHW Ver. 9以降 7以降 9以降 9以降
補足 ・1Service Meshあたり一度に1台のVMが移行可能 ・1Service Meshあたり最大200VMの同時移行が可能 ・ネットワーク帯域要件なし ・1Service Meshあたり一度に1台のVMが移行可能 ・ネットワーク帯域要件なし ・L2延伸なしでも利用可能 ・1Service Meshあたり最大200VMの同時移行が可能 ・無停止での移行が可能
表1: HCX で提供される移行機能一覧

1. HCX vMotion

HCX vMotion は、vMotion という名前からも想像できるように、仮想マシンを完全無停止で移行できる手段です。vSphere 環境で昔から提供されている vMotion では、移行元と移行先の互換性要件(例: CPU 種別、vSphere バージョン等の合致)がやや厳しいのですが、HCX vMotion ではシステム要件が大幅に緩和され、様々な構成のオンプレミス環境から AVS に移行する手段としてご利用いただけるようになっています。

HCX vMotion はビジネス上ダウンタイムを許容できないシステムで特に有用ですが、お客様によっては”ダウンタイムがない=ユーザーアナウンスや関係各所との調整が不要”であり、移行における工数・プロセスを大幅に緩和できることに魅力を感じ、本方式を採用されているケースもあります。

一方で、考慮事項もいくつかあります。

  • vMotion は一台ずつシリアルに行われ、複数の仮想マシンを同時に移行することはできません。(移行設定作業自体は、グループ化して一度にまとめて実施できます)
  • 移行時にメモリ領域も含めた転送を行うため、ネットワーク回線の帯域や品質が悪い環境では、想定以上に時間がかかったり失敗する可能性があります。実効帯域 100Mbps 以上かつ遅延の少ない環境が推奨されます。
  • vMotion の特性上、移行が完了すると移行元環境からは仮想マシンがなくなります。もし切り戻しの容易性に重点を置く場合は、次の HCX Bulk Migration のほうがよいでしょう。

2. HCX Bulk Migration

HCX Bulk Migration は、オンプレミスから AVS 側に仮想マシンのレプリケーションを行い、任意のタイミングで移行できる手段です。レプリケーション中のダウンタイムはありませんが、実際の移行(切替)のタイミングでのみ、オンプレミス側仮想マシンのシャットダウンとAVS 側仮想マシンの起動を伴うため、数分程度のダウンタイムが発生する点は考慮が必要です。

一方 HCX vMotion とは異なり、”複数の仮想マシンを同時に移行可能”であり、大量の仮想マシンを短期間で移行したいケースでは最も適しています。また、移行元仮想マシンはシャットダウンされるだけでデータが残っているため、万が一の切り戻し(ロールバック)がしやすい点もメリットといえるでしょう。

3. Cold Migration

上記二つが稼働中の仮想マシンを移行させる手段であるのに対して、Cold Migration はオフラインの仮想マシンを移行する手段として提供されています。シャットダウン中の仮想マシンがある場合、わざわざそれらを起動することなく、AVS 側に移行いただけます。

4. Replication Assisted vMotion (RAV)

最後の Replication Assisted vMotion (RAV) は、HCX vMotion と HCX Bulk Migration を組み合わせたような仕組みです。仮想マシンのレプリケーションを行うという観点では Bulk Migarion と同じですが、最後の切り替え時に仮想マシンの停止・起動を発生させる代わりに、vMotion 技術を利用して無停止で移行を完了させます。その結果、複数の仮想マシンをダウンタイムなしで一括移行できるようになります。

“高品質なネットワーク環境が必要”、”移行するとオンプレミス側に仮想マシンは残らない” などの考慮事項は、HCX vMotion と同様です。

なお本機能のみ、HCX 上位エディションである Enterprise での提供となります。そのため RAV をご利用になりたい場合は、Enteprise へのアップグレードをご検討ください。

以上のように、HCX だけでも4種類の移行手段が提供されており、システムごとの要件や特性に応じて任意の方法を採用いただけます。多くのお客様では、ダウンタイムが許容できないシステムは「HCX vMotion」、それ以外のシステムは「HCX Bulk Migration」でまとめて移行というように、組み合わせて移行を行っています。

HCX 採用における前提準備と考慮事項

ここまで見てきたように、HCX を活用することでクラウド移行における技術的難易度を大幅に削減し、かつ短期間で移行できるようになります。

ただし HCX を利用するためには、事前に確認すべき前提条件や考慮事項もあります。詳細は弊社ドキュメント (例: VMware HCX をデプロイして構成する – Azure VMware Solution | Microsoft Docs )や VMware 製品の技術情報(例:VMware HCX を使用したハイブリッド移行のチェックリスト)に記載されていますが、ここでは代表的な確認ポイントを3つ取り上げます。

1. オンプレミス側のリソースおよび展開作業が必要

一点目は、HCX そのもののセットアップや管理が必要になる点です。

AVS プライベートクラウドを展開すると、HCX 関連のコンポーネント (HCX Manager 等)も自動的に AVS 上に展開されます。

ただし実際に HCX を利用するためには、移行元となるオンプレミス側プライベートクラウドへの HCX 仮想アプライアンスの導入や接続設定が必要です。スムーズに展開するためには、あらかじめ仮想アプライアンス用のキャパシティを確保したり、移行元プライベートクラウドのネットワーク構成を正しく把握している必要があります。

2. レガシー環境は限定サポート

二点目はオンプレミス側の vSphere のバージョンが古い場合です。

2021年6月現在、HCX は移行元 vSphere のバージョンとして 6.0 以降を正式サポートしています。ですが、”現在も vSphere 5.5 環境があり、そこから移行したい” というお話をいただくことがあります。このようなご要望に応えられるよう、2021年10月末までの期間限定で Limited Support が提供されています。

詳細は HCX Support for Legacy vSphere Environments (82702) (vmware.com) に記載されていますが、「オンプレからの移行目的でのみ利用可能(逆方向の移行はサポート外)」「ベストエフォートベースの限定サポート」という点がポイントになってくるでしょう。

もし vSphere 5.5 からの移行を検討されている場合、10月までの完了を目指して移行計画を立てていただくことをお奨めします。

3. ExpressRoute 接続が必要 (機能評価は VPN 経由でもOK)

最後は HCX 利用にあたって、Azure との閉域網接続(ExpressRoute)が必要になる点です。

AVS はオンプレミスとの接続手段として、ExpressRoute および IP-VPN (Azure VirtualWAN 経由) の2種類をサポートしています。詳しくは過去Blog (解説! AVS とオンプレミスの接続方法 – VMware Japan Blog) を参照ください。

ですが、HCX は VPN でトンネル化された環境での利用がサポートされないという制限があるため、現状では ExpressEoute が実質必須となります。

なお技術的には VPN 経由での接続も可能です。そのためお客様によってはサポート外であることをご理解いただいたうえで、まずは VPN 経由で HCX 機能検証 (PoC) を行い、本番環境構築時に改めて ExpressRoute を開設いただく、というケースもあります。

まとめ

今回はオンプレミスから AVS への移行手法として、主に HCX をご紹介しました。HCX は、短期間かつ低負荷での移行を可能にする強力な移行ツールとなります。また今回は移行機能に焦点を絞りましたが、L2延伸やWAN最適化機能など、ハイブリッドクラウドを構成する上で有用な機能も実装されています。

多くのお客様が、数百・数千という仮想マシンを移行させてきた実績もありますので、ぜひ皆様のクラウドマイグレーションの選択肢として、AVS + HCX をご検討ください。

そして、HCX についてもう少し詳しく知りたくなった!という方に是非お勧めしたいネクストアクションが2つあります。

<<AVS ウェビナー(6月30日開催)>>

超直前ですが、6月30日に「VMware + Microsoft が提供するクラウド時代の 新プラットフォーム“Azure VMware Solution” ~ 概要から移行方法までデモも交えて一挙紹介 ~」というウェビナーを開催します。前半はマイクロソフト前島より AVS の概要をご紹介し、後半は VMware 八田さんより 「HCXを使ったクラウド移行と検討の進め方」を解説いただきます。HCX のデモ動画なども用意していますので、ぜひご参加ください。当日はチャットによるQ&Aもあります。

残念ながら都合が合わないという方も、(Q&Aはできませんが)オンデマンド版に同じ URL からアクセスいただける予定です。

<<AVS ハンズオンラボ>>

以前の Blog 記事でもご紹介しましたが、VMware のWebサイトにて AVS に特化した Hands-on-Lab をご提供しています。現在2つのコンテンツが提供されており、1つは AVS そのものの構築プロセスを体験いただけるもの、もう1つは HCX の展開や移行に特化した lab になっています。これらは無償で、何回でもアクセスできますので、HCX の利用イメージをつかんでいただくためにぜひご活用ください。

図3: AVS Hands-on-Lab 操作画面イメージ