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徹底解説! AVS の課金・ライセンス体系

みなさま、こんにちは! マイクロソフトの前島です。

先日 Azure Base コンテンツ ポータルにて、Azure VMware Solution ライセンスガイドを公開しました。そこで第6回となる今回は、本ガイドに沿う形でライセンスをテーマとして取り上げます。ライセンス関連の話は苦手意識のある方も多いかと思いますが、コストの最適化およびコンプライアンス準拠という観点で重要です。

AVS の基本ライセンス体系

AVS で検討すべきコスト(ライセンス)をまとめると、大きく3つに分類できます。

  1. その他 Azure サービス 部分
  2. 仮想インスタンス (VM 内のソフトウェア) 部分
  3. Azure VMware Solution 部分
図1: AVS の課金体系

図とは順番が逆転しますが、下から見ていきましょう。

Azure VMware Solution 部分


一つ目は、AVS そのものです。 AVS ではプライベートクラウドを構成するハードウェアやソフトウェアをまとめたパッケージ “AV36” を提供しており、これが AVS 本体にあたります。本 SKU には VMware 製品ライセンス(vSphere Enterprise Plus, vCenter Standard, vSAN Enterprise, NSX-T Advanced, および HCX Advanced) も標準で組み込まれており、これらを別途調達する必要はありません。パッケージの詳細は第2回記事(解説!Azure VMware Solution のサービスモデルとパッケージ)で詳しく解説していますので、合わせてご参照ください。

AV36 の単価等は 公式価格ページで公開されており、1時間単位の従量課金でご利用いただけます。つまり ” AV36 を何ノード稼働させるか?” が分かれば、AVS 本体の概算は簡単に算出できます。Microsoft では Azure Migrate という無償ツールで、既存 VMware プライベートクラウド環境から AVS への移行サイジング(アセスメント)機能をご提供していますので、ぜひご活用ください。詳細は Azure Migrate を使用した Azure VMware Solution への移行の計画 にまとめられています。

図2: Azure Migrate によるサイジングイメージ

なお、AVS の料金(= AV36 の稼働時間 x ノード台数)は Azure 利用費用の一項目として請求されます。AVS を利用するために別途契約が必要になったり、個別の請求書が発行されることはありません。

仮想インスタンス (VM 内のソフトウェア) 部分


二つ目は、AVS 上で稼働する仮想マシン (OS やアプリケーション) に関するライセンスです。まず大事なポイントとして、AVS の共同責任モデルにおいて仮想マシンはお客様の責任範囲となります。

図3: AVS 責任分解モデル

技術的には VMwareがサポートするゲスト OS をそのまま稼働可能ですが、ライセンス観点ではお客様が各 OS /アプリケーションベンダーと確認いただく必要があります。言い換えると、AVS 上で稼働するサードパーティ製品ライセンスに関してマイクロソフトから正式な回答をすることはできません。

■ 仮想インスタンス部分でマイクロソフト製品をご利用いただく場合

ここでは、 AVS 上で Windows Server などのマイクロソフト製品をご利用いただく場合の話に踏み込んで解説していきます。少々ややこしい部分ではあるのですが、Azure/AVS ならではの様々なメリットが用意されています。

最初に覚えていただきたい用語が2つあります。ひとつは「専用ホスト クラウド サービス」、もう一つがListed Providerです。

「専用ホスト クラウド サービス」は、一言で言うと “物理占有型のクラウド サービス” を指します。一般的な IaaS 型クラウド サービス (Azure 仮想マシン等)では、仮想マシンはお客様ごとに分離されますが、それを稼働するホスト(物理サーバー)は複数のお客様間で共有されるのが一般的です。これをマルチテナント クラウドサービスと言います。

一方、昨今ではハードウェアレベルでお客様ごとに分離・占有する専用ホスト クラウドサービスも広がってきています。たとえば Microsoft Azure では、Azure Dedicated Host と呼ばれるサービスを提供していますし、AVS もこれに分類されます。

もう一つの「Listed Provider」は、上記「専用ホスト クラウドサービス」を提供するパブリッククラウド プロバイダーを指します。対象となるプロバイダーは https://aka.ms/ListedProviders から確認でき 、VMware プライベートクラウドを提供するサービスとしては AVS, VMware Cloud on AWS, Google Cloud VMware Engine (GCVE) などが該当します。

これら Listed Provider による専用ホストサービスは比較的新しい概念であり、ライセンスの適用においてマルチテナント(≒パブリッククラウド)と見做すか、あるいは従来型のアウトソーシングの拡張と見做すか等、解釈があいまいになっていました。そのためマイクロソフトでは2019年10月にライセンス条項を更改し、これら Listed Provider におけるマイクロソフト製品ライセンスの取り扱いを明確化しました。詳細は 専用ホスト クラウド サービスに関するマイクロソフト ライセンス条項の改定 をご参照ください。

図4: マイクロソフトライセンス条項の改訂 (2019年10月~)

さて以上を踏まえて、実際に利用可能なマイクロソフト製品ライセンスをまとめたものが下表です。

図5: 環境別マイクロソフト製品の利用可能ライセンス

いろいろな情報が記載されていますが、今回は VMware のソリューションで構築されたプライベートクラウドを提供するパブリッククラウドとして、AVS および他社 Listed Provider によるサービスに焦点を当てて補足します。

Microsoft 製品 Listed Provider 物理占有型 Azure VMware Solution
Windows Server SPLA AHB
SQL Server SPLA SA SA AHB
Windows 10 LTSC VDA E3/E5 USL VDA E3/E5 USL
Windows 10 SAC VDA E3/E5 USL Windows 10 E3/E5 USL VDA E3/E5 USL
Office Professional Plus SPLA SPLA (Microsoft からの提供無)
Office 365 ProPlus (現 M365apps) SCA 必須
表: AVS および他社 Listed Provider における利用可能ライセンス

Windows Server は、Azure ファミリー共通の特典である  Azure ハイブリッド特典 (AHB) を適用できます。ソフトウェアアシュアランス (SA) 付きのライセンスをお持ちのお客様は、新たにライセンスを買い直すことなく、AVS 上の仮想インスタンスでも Windows Server を稼働いただけます。

オンプレミスで VMware ソリューションによるプライベートクラウドをご利用中のお客様の多くは、(仮想マシンごとではなく)ホストの物理コア数分の Windows Server Datacenter ライセンスを購入し、Datacenter エディションの特典である “無制限の仮想化の権利” を活用して Windows Server ゲスト OS を稼働しているかと思いますが、AVS でも同等の権利を適用できます。唯一の違いは SA が必須となり、SA 付ライセンスをお持ちでない場合は別途購入いただく必要があります。

なお、AVS 上で稼働する Windows Server 仮想マシンの数が少ない場合は、Standard ライセンスを利用して費用を下げることも可能です。

図6: Windows Server の Azure ハイブリッド特典

一方、Azure 以外の Listed Provider によるサービス上では AHB が適用されず、各プロバイダーより SPLA という形態で別途ライセンスを購入いただく形になります。既存ライセンスの持ち込みや再利用はできませんのでご注意ください。

SQL Server についても、基本的には Windows Server と似た考え方になります。ただし SQL Server では SA 特典としてライセンスモビリティが認められているため、AVS/Listed Provider によるサービスどちらの場合でも SA によるライセンス持ち込みが可能です。

図7: SQL Server の Azure ハイブリッド特典

VDI シナリオなどで欠かせない Windows 10 Office などのクライアント製品も、AVS では所定のライセンスをお持ちであれば別途ライセンスを購入することなくご利用いただけます。たとえば Windows 10 E3 ライセンスをお持ちの場合、AVS 上で Windows 10 SAC(Semi-Annual Channel)を稼働できます。一方、Azure 以外の Listed Provider によるサービス上で Windows 10 SAC を稼働させる場合は、VDA ライセンスが必要です。

Office クライアントについても、AVS と他社 Listed Provider 環境では利用可能なライセンスが異なります。Microsoft 365 Apps for enterprise (旧称 Office 365 ProPlus) ライセンスをお持ちの場合、 AVS 上の仮想マシンでも M365Apps をご利用いただけます。一方、他社 Listed Provider 環境での M365 Apps 稼働は認められておらず、クラウドプロバイダー各社から SPLA として提供される Office Professional Plus を購入いただく形になります。 なお制度上は AVS でも SPLA による Office Professional Plus の提供が可能になっていますが、Microsoft 上のプラットフォームであるため実際には提供されていません。

ざっとポイントを掻い摘んでご紹介しましたが、それでも一度に理解するのは難しい内容かと思います。 現在お持ちのライセンスを利用できるか等、お客様ごとの状況によっても最適解は異なってきますので、ライセンス関連で少しでもご不明な点がある場合はリセラー様や弊社担当営業、またはライセンス相談窓口にご相談いただければ幸いです。

その他 Azure サービス 部分


最後に、AVS 本体以外の Azure サービス利用ライセンスを見ていきましょう。

AVS 本体(AV36) には プライベートクラウドを構成する基本コンポーネントがすべて含まれているため、極端な話、それ以外の Azure サービスを一切利用しないことも可能です。とはいえ現実的なユースケースでは、オンプレミスと AVS をプライベート接続 (ExpressRoute) したり、仮想マシンのバックアップを Azure ネイティブのオブジェクトストレージ (Azure Blob) に取得したり、あるいは各種 Azure IaaS/PaaS と連携するシステムを構成したりと、AVS 以外の任意の Azure サービスを併用することが一般的です。

これら AVS 以外の Azure サービスは、それぞれのライセンス・料金体系に準拠し、AVS 特有の考え方はありません。Azure のご契約で毎月の請求書払いを選択されている場合、明細の一項目として AVS もその他リソースも横並びで費用が計上され、その合計金額が月額の Azure ご利用料金となります。

なおネットワーク関連だけは、どこまで AVS 標準料金に含まれており、どこから個別費用として発生するのかが分かりにくいかもしれません。これに関しては第4回記事(解説! AVS とオンプレミスの接続方法)で詳しく解説していますので、合わせてご参照ください。

図8: [第4回記事より転用] オンプレミスと AVS のネットワーク接続

まとめ

今回は、Azure VMware Solution ライセンスガイド を引用する形で、 AVS におけるライセンスの考え方や料金算出の方法を解説しました。Azure ファミリーである AVS では、特に仮想インスタンスとして弊社ソフトウェアをご利用いただく場合にさまざまなライセンス上の特典やコストメリットがあります。ぜひこれら特典を最大限活用し、コンプライアンス準拠とコスト最適化を両立いただければ幸いです。

最後に繰り返しのご案内になってしまいますが、ライセンスに関するご不明な点や個別の案件に関しては必ずリセラー様や弊社担当者にご相談ください。ご契約形態や所有されている既存ライセンスを踏まえて、最適な構成をご案内させていただきます。