こんにちは、パートナーSEの川﨑です。今回は VMware vSphere 6.0 のリリースに伴う、VMware vSphere vMotion の機能アップデートについてご紹介いたします。vMotion の機能拡張は今回のアップグレードの目玉の一つとなっておりますので、ぜひご注目ください。
■クロス vCenter vMotion( vCenter Server システム間のvMotion )
クロス vCenter vMotion とは、異なる vCenter Server の配下にある ESXi ホスト間で vMotion を可能にする機能です。これまで、vSphere 5.5 まででは、vMotion は同一の vCenter 下でしか行うことができませんでした。今後は、図1のイメージのように、異なるvCenter に所属するホストやクラスタを移行先として vMotion で移行することが可能です。(図1では、”CentOS2” という仮想マシンを ”172.16.119.132” の vCenter 下の ”Cluster2” というクラスタから、”172.16.119.131” の vCenter 下の ”VSAN” というクラスタへの移行を示しています。)
図1.クロスvCenter vMotion での移行イメージクロス vCenter vMotion の実施方法は通常の vMotion となんら変わらず、図2のように仮想マシンを選択して、アクションとして”移行”を選択し、”計算リソースのみ変更します”または”計算リソースとストレージの両方を変更します”を選択してウィザードを進めることで、通常の vMotion 同様に移行を行うことが可能です。
なお、異なる vCenter 間での移行時の要件については弊社ドキュメントの下記ページをご参照ください。
http://pubs.vmware.com/vsphere-60/index.jsp?topic=%2Fcom.vmware.vsphere.vcenterhost.doc%2FGUID-897E10D6-A413-4699-B3C6-498AA80CB9ED.html
クロス vCenter vMotion が可能となったことで、これまで vCenter の管理範囲ごとに区切られていた仮想基盤が vCenter の縛りを超えて一つの共通プラットフォームとして扱えるようになります。データセンターごとに vCenter を分けていたケースなどでは、今回初めて vMotion での移行が可能になり、嬉しい機能拡張ではないでしょうか。
vCenter Server を超えた際に気になる点の一つとして、仮想マシンに関する様々な情報は引き継がれるのか、といった点があります。実際には多くの情報は引き継がれ、仮想マシンの MAC アドレスや、タスクの履歴、シェアや予約値といったリソース設定、HA・DRS の設定等は引き継がれますが、パフォーマンスデータは引き継がれない仕様となっております。詳細は補足として、記事の最後に記載いたします。
■長距離 vMotion 移行
長距離 vMotion 移行は、長距離に離れたデータセンター間など、遅延が大きい環境間での vMotion を可能にします。通常の vMotion で許容される RTT (=round trip time) は 5ms ですが、これが Long Distance vMotion では 150ms まで許容されます。これにより、アメリカであれば大陸の東西、日本であればシンガポールまでの距離であっても、vMotion で仮想マシンを移動させることができます。 (*レイテンシは実際に利用する回線の品質にも依存します。上記はあくまで一例とお考え下さい。)
http://kb.vmware.com/kb/2106949
■vMotion ネットワーキング
vMotion のネットワーク周りについてもアップデートがあります。一つは、TCP/IP スタックが複数構成できるようになったことにより、vMotion についても専用のTCP/IP スタックが構成可能となりました。VMKernel アダプタの作成時に、TCP/IP スタックとして ”vMotion” を選択することで設定することができます。(図4)
TCP/IP スタックが vMotion 専用で構成できるようになったことに伴い、vMotion 用ネットワークが異なる L2 セグメントに跨る場合にも柔軟に構成できるようになりました。従来は vMotion 用トラフィックが有効化された VMKernel アダプタ も管理ネットワークと同一の TCP/IP スタックを利用しましたが、vSphere 6.0 では個別にデフォルトゲートウェイやルーティングテーブルの構成を持つことが可能です。なお、仮想マシンの接続されるネットワークについては同一のL2ネットワークセグメントへの接続が必要です。(図5では青線が vMotion 用ネットワーク、緑線が仮想マシン用ネットワークを示しています)
次に、クロス vSwitch vMotion について触れます。vSphere 5.5 まででは、vMotion 時には接続前後で接続する標準仮想スイッチ(vSS)、または分散仮想スイッチ (vDS) の仮想マシンポートグループを選択することはできず、移行前後で同じ仮想マシンポートグループ(vSS の場合は同じラベルのポートグループ)に接続する必要がありました。vSphere 6.0 では、移行後に接続する仮想マシンポートグループの選択が可能となり、例えば vSS の仮想マシンポートグループに接続されていた仮想マシンを vDS の仮想マシンポートグループに接続することも可能となりました。ただし、vDS から vSS への移行は選択できない点と、移行前後で IP アドレスの変更はされないため、仮想マシンのネットワーク接続確保のためには同一の L2 ネットワークに接続し続けることが必要な点には注意が必要です。
■補足:クロス vCenter vMotion で引き継がれる情報、引き継がれない情報について
下記で、クロス vCenter vMotion での移行前後で、引き継がれる情報と引き継がれない情報を整理いたします。内容については、一部検証結果に基づく情報であることをご承知ください。
①UUID
uuid.bios と vc.uuid は保持され、uuid.location は変更されます。これらは vmx ファイルを参照することで確認可能です。
②MACアドレス
MACアドレスの変更はありません。また、移行元の vCenter Server では、 MAC アドレスをブラックリストに追加して、新しく作成された仮想マシンにその MAC アドレスが割り当てられないようにします。
③HA/DRS ルール
基本的には下記ルールはクロス vCenter vMotion 後も保持されます。
- アフィニティルール
- VM ごとのオーバーライドルール
- 自動化レベル
- 起動優先順位
- ホスト分離時の対応
ただし、下記の場合は例外的に保持されないことが社内の検証で確認されています。(判定は VM ごとに行われます)
*アフィニティルールは VM 間で設定している場合、適用には双方の VM でルールが保持される必要があります
④リソース設定
仮想マシンに対する CPU、メモリリソースのシェア、予約、制限値は保持されます。
⑥パフォーマンスデータ
パフォーマンスデータは移行の前後で引き継がれません。
⑦vRealize Operations Manager 上のデータ
vRealize Operations Manager 上のパフォーマンスデータは移行前後で引き継がれません。
■終わりに
vSphere の基本的な機能の一つである vMotion ですが、vSphere 6.0 では更なる機能拡張がなされました。上記のアップデートを踏まえて、更に vMotion を使いこなしていただけたらと思います。最後までお読みいただきありがとうございます。