今年は、公衆衛生上の大きな問題の発生が公共部門の組織に影響を与え、政策、ITのフレームワーク、イノベーション能力などにおいて、さまざまな問題が顕在化しました。世界中の市民は、明確なコミュニケーション、安心感、リーダーシップを政府に求めており、官民の強固な関係を築くための重要な時期となっています。メディアの報道がスピード感を増す昨今では、人々は政府の危機対応をより強く意識し、他国と比較して精査することができます。
パンデミックの際に政府や公衆衛生組織がどのようにアプリケーションを活用したかを見れば、市民への関わりや支援にどれだけ上手く適応したかを評価できます。多くの政府や組織は、仮想マシン、コンテナ、そしてサーバーレス機能から構成されるマルチクラウド対応のソフトウェアサービス、つまりモダンアプリケーションを活用しています。モダンアプリケーションを通じて、接触者追跡調査、リアルタイムの病院ベッドの空き状況調査、最新のCOVID-19ホットスポットの特定といったサービスを、迅速に適応させて打ち出しています。
テクノロジー主導の動きをいち早く示した韓国を例に取ってみましょう。韓国政府は3月中頃までに、全国22,000の薬局におけるマスクのリアルタイム販売データを含んだオープンAPIを開発者たちに提供し、市民が在庫のある店舗を確認できるようにしました。また、韓国政府が公衆衛生に関する統計を公開したことで、開発者たちはウイルス感染拡大の追跡に役立つモバイルアプリを開発できました。 |
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VMware, Inc. アジア パシフィックおよび日本地域担当上級副社長兼ゼネラル マネージャーダンカン・ヒューエット(Duncan Hewett) |
なぜ政府は迅速な対応が取れたのか?
最新のデジタルインフラストラクチャを備えた政府は、COVID-19への対応の中で、市民との迅速なコミュニケーションや関与、可能性の提示が、これまで以上にできています。これらの国や州、県では、アプリケーションを開発しモダナイズするための、クラウドを介して簡単に拡張できるデジタルインフラストラクチャが構築されました。
大企業と同様に、政府にとっても、こうしたモダナイゼーションは必ずしも迅速に行えるものではありません(私の同僚のブルース・デイビーが、本連載の「技術的負債」に関する考察のなかで説明している通りです)。ここ数年の間に、アジアの新興市場は、デジタルトランスフォーメーションを進めるにあたって、高度なテクノロジーに一足飛びに移行しました。今日では、最新のデジタルインフラストラクチャやクラウドサービスを既に活用している組織は、新しい情報や機能を極めて迅速に、市民に提供できるようになっています。
アプリケーションのモダナイゼーションについてのロードマップの良い例は、シンガポールです。5年計画でのクラウド移行が進む中、同国は新しいサービスを契約しました。そのサービスは、税金、スマート水道メーター、さらには学校の試験といった多岐にわたるデジタルアプリケーションエクスペリエンスを、市民に提供するものです。これにより、COVID-19の状況下でも、接触者追跡調査のアプリや、事業者の顧客や訪問者を漏れなくチェックするSafeEntryアプリの開発を迅速に行うことができました。
SafeEntryアプリが国中の至るところで運用されている様子には驚かされます。ショップやレストラン、ショッピングモール側で必要なことは、QRコード付きの看板を置いておくだけと非常に簡単。市民はそのQRコードをスキャンして(ほとんどの場合、足を止めることもなく)、温度センサーを通るだけです。市民からは、より安心感と自信を持って日常生活を送れるようになったという声が寄せられています。
このようなデジタルトランスフォーメーションの取り組みは、非常に重要でタイムリーなニーズに対応したものですが、どのような場合にも効果的だとは言えません。VMwareとVanson Bourneは、デジタルトランスフォーメーションおよびアプリケーションのモダナイゼーションに関する広範な調査の一環として、世界の235の政府機関に調査を実施しました。その結果、回答者のおよそ42%が、上位三つの優先事項の一つに「カスタマーエクスペリエンスの向上」を挙げました。このことは、効果的なコミュニケーションというものが政府にとっていかに重要であるかを示しています。また興味深いことに、目標達成に役立つことが明白と思われる「既存テクノロジープラットフォームのアップグレード」を優先するとした回答者は、全体の37%に留まりました。
政府がアプリケーションを効果的にモダナイズするにはどのようにするべきか?
専門家は、次のようなことを推奨しています。全体像にフォーカスすること。分離してモダナイズしないこと。継続的な改善にフォーカスするのに十分なインサイトと投資を確保すること。
私はさらに、次の事柄を付け加えます。
- テクノロジーに精通したリーダーが不可欠であること。これは私たちの調査に回答した政府の78%が支持しています。
- チームに、プロジェクトの完了までを見通すのに必要なスキルが備わっていること。こちらも、私たちの調査に回答した公共部門の組織のうち、およそ95%が支持しています。
- 組織は、従業員の間でアジャイル思考を促進すること。デジタルトランスフォーメーションは動き回る野獣さながらであり、チームは変化する状況への迅速な適応を頻繁に迫られます。
ここでオーストラリア・ビクトリア州の国営企業、Cenitexの試みを紹介します。Cenitexは、35,000人の公務員が使用するエンドユーザーコンピューティング(EUC)エクスペリエンスの変革と、地域住民向けのより良い公共サービスの開発を目指しています。同社は、サービスの需要に対する柔軟性を高めるべくハイブリッドクラウドアプローチに移行し、またデジタルワークスペースを管理するためモダンアプリケーションを採用しました。それによって、予期せぬ事態にも適応しやすい、よりレジリエントで安全なサービスを提供できるようになりました。
CenitexでのエンドツーエンドのITインフラストラクチャの更新について詳しく知りたい方は、こちらの動画をご覧ください(右下隅の「フルスクリーン」をクリックすると、全画面表示に切り替わります)。
先日、このことについて同社CEOのFrances Cawthra氏と、彼女の率いるチームと話す機会がありました。このような危機のさなかに彼女たちが達成したことを聞いて、私は驚きました。これまで、5棟の建物を中心に運営されていた市民サービスを、彼女たちは公務員5,000人の自宅で運営するように変えてしまったのです。わずか2週間の間に、EUC(End User Computing)トランスフォーメーションをほぼ完全に成し遂げたわけです。COVID-19は予想外の出来事でしたが、チームがレジリエントなデジタルインフラストラクチャを整備するために、ここ2年以上もの間、大変な労力をかけて準備を進めてきたことが報われる結果となりました。
官民のパートナーシップが違いを生む
世界中でデジタルサービスの採用が増加するにつれて、公共部門のイノベーションが重要になってきます。パンデミックなどの予期せぬ事態は大規模なデジタルトランスフォーメーションのニーズを喚起するため、公共部門のイノベーションは特に重要なものになります。アジア太平洋地域の政府の多くは、民間セクターと協力してイノベーションを強化し、デジタル政府サービスの新規開発や改良を指揮しています。
オーストラリア・ニューサウスウェールズ州政府のカスタマーサービス担当大臣で、Ryde in AustraliaのメンバーでもあるVictor Dominello氏が良い例です。彼は、山火事に関する情報交換や、サイバーセキュリティの強化、COVID-19をきっかけとしたデジタルライセンスを携帯する実用的な方法の開発といった、市民サービスのための新たな方法を支援しています。このようなリーダーシップは、政府のコミュニケーションとサービスの進化にとって、極めて重要です。
今年は、安全性、医療サービスの提供、緊急経済対策の実施、接触者追跡調査などのデジタルサービスが、必要に迫られて加速しました。こうした状況では、ビジネスに重要なアプリケーションを拡張したり、アップデートを促進したり、フィードバックにリアルタイムで対応したりできる政府の能力が不可欠です。それにより、政府は最高の市民体験を提供し、安心・安全を強化することが可能になります。
パンデミック後の唯一の変化は、市民がこうしたデジタルサービスを期待するようになることです。改善へのプレッシャーがなくなることはありません。政府と企業とは、インフラストラクチャとアプリケーションの配布をモダナイズするために協力し合うことで、ユビキタス接続への継続的な移行による利益を享受できるようになるでしょう。
*US参考資料原文、および参考資料内コメントは下記URLよりご覧ください。(英語サイト)
https://www.vmware.com/radius/modern-app-innovation-apj-governments/