2022年、新たな年を迎えたタイミングで、エンタープライズ テクノロジの今後の動向を予想したいと思います。まず前提として、マルチクラウドへのシフト傾向が続くという予測に疑いの余地はないでしょう。企業はマルチクラウドの活用により、自由に最高水準のクラウド戦略を推進して、ビジネスの変革や革新的なアプリケーションの開発を加速できます。そこで今回は、マルチクラウド環境というレンズを通して、クラウド、セキュリティ、アプリ、Anywhere Workspace という観点から、VMware のリーダーによる2022年の未来予測について解説します。そして締めくくりに、私自身とお客様からいただいた予測を紹介します。
クラウド
`特定のクラウドに依存しない統合型データ ファブリックが登場し、マルチクラウド アーキテクチャの円滑な運用を大きく阻害するデータ グラビティを軽減する
マーク・フライシュマン(Marc Fleischmann) VMware, クラウド CTO
ほとんどの企業は、クラウド間でのアプリケーションの可搬性を実現するため特定のソリューションを見定めています(それらの中にはアプリの移行に適したものとそうでないものがありますが・・)。しかし、データの可搬性は依然として大きな課題であり、データはアプリを活用するための燃料といえます。従来のストレージシステムでは、クラウドのような使い勝手を実現することはできません。リソースの活用が固定のハードウェア内に制限されるため、結果として、データの滞留、キャパシティの不足、拡張性や柔軟性の制限、複雑な配置、導入から廃棄までの高額なコストなどの課題が発生します。マルチクラウド/ゼタバイト時代に向かう業界の動きは、このような課題をさらに悪化させるでしょう。VMware の予測では、特定のクラウドに依存しない統合型データ ファブリックが今後2年以内に登場し、マルチクラウド アーキテクチャの円滑な運用を大きく阻害するデータ グラビティを軽減することができるようになります。
セキュリティ
盗んだ認証情報を利用して、Fortune 500企業に対する二重脅迫型ランサムウェア攻撃が行われるが、攻撃に対抗すべく、テクノロジ業界が立ち上がる
トム・ギリス(Tom Gillis) VMware, ネットワークおよびアドバンスト セキュリティ ビジネス グループ 上級副社長兼ゼネラルマネージャ
企業がランサムウェアの拡散を阻止するためにネットワーク セグメンテーションを導入すると、攻撃者は信頼できる認証情報を利用してネットワーク内を自由に移動しようとします。有効な認証情報があれば、攻撃者はアラームを鳴らさずに多くの悪質な攻撃を実行できます。
最も巧妙なクレデンシャル攻撃の中には、PowerShell などネイティブで承認されたツールを使い、正当な活動に見せかけてアクセス権を得るものもあります。攻撃者が組織のネットワークを横に移動できるようになると、システム侵入のための鍵を手に入れたも同然で、顧客の機密情報や企業の専有データへのアクセスを許してしまいます。
二重脅迫型(double-extortion)ランサムウェア攻撃では、攻撃者は被害者のファイルを暗号化する前に機密情報を持ち出し「機密データを公開する」と被害者を脅迫します。このようにサイバー犯罪者は、企業側がファイルを復旧することに加え、機密データが販売されたり公開されたりするのを阻止するという名目でも身代金を要求します。
2021 年は Kaseya や Colonial Pipeline などに対するランサムウェア攻撃が報じられましたが、2022 年の攻撃者はさらに一歩進んで、盗んだ認証情報を利用した二重脅迫型ランサムウェア攻撃が増えると VMware は予測しています。
一方、この課題には世界中のテクノロジ企業、オープンソースコミュニティ、学界、サイバーセキュリティ機関、政府機関などが団結して取り組んでいくと考えています。VMware では、これまでもこのような取り組みに協力しており、今後も皆で団結して乗り越えられると信じています。
アプリケーション
2022年は Kubernetes API サーバの年になる
アジャイ・パテル(Ajay Patel) VMware, モダン アプリケーションおよびマネジメント ビジネス グループ ゼネラルマネージャ
VMwareは、Kubernetes(K8s)のパターンを新たな領域に持ち込むツールの登場を予測しています。これにより新たな問題を解決できるほか、開発、セキュリティ、運用業務の関係性が変わっていくでしょう。K8sは、コンテナ化されたインフラで実績がありますが、組み込み方によっては、より幅広く応用が可能です。K8sによって普及したマニフェストベースのモデルを活用するシステム(ビルドシステム、インフラ管理、統合型アプリケーション制御プレーン)が増えると考えます。マニフェストベースのアプローチへの移行が進み、命令型の DevSecOps から、宣言型の管理アプローチを適用するインテントドリブンのサービス利用へとシフトするでしょう。これは、ITにおける一種の逆転現象を引き起こします。システムが実行中の項目を把握しようと試み、API を提供して実行中の項目を変更するというやり方から、意図された状態を表すマニフェストを使用して実際の状態と意図された状態の調整を行う方法へと移行するのです。これにより、プラットフォームに多額の「フルスタック」投資をすることなく、AI/ML、ストリームベースの処理、アプリの統合およびその他の領域の課題にも取り組むことができるでしょう。
Anywhere Workspace
パスワードレス認証が、攻撃回避の必須アイテムとなる
ブライアン・マッデン(Brian Madden) VMware, エンド ユーザー コンピューティング担当 上級テクノロジスト
エンド ユーザ コンピューティングの分野における主要トレンドの1つとして予測されているのは、パスワードレス認証が広く普及し、一般に受け入れられるようになるだけでなく、今後の「必須アイテム」になることです。ほとんどのセキュリティ攻撃は、より強力な認証方法を使用することで回避できます。
パスワードレス認証は多要素認証の一種で、ユーザのパスワードを別の要素(一般的には、生体認証によってロック解除されたクライアント側の証明書)に置き換えるものです。ユーザは、常に変わるパスワードを覚えたり、認証アプリを使用したりする必要がなくなり、1日を通じて指紋や顔のスキャンによる認証で企業のリソースにアクセスできるようになります。
また、VMwareは2022年にVPNの利用が大幅に減り始めると予測しています。パンデミックの期間を通じて、VPNは企業にとって最も脆弱な領域の1つであることが明らかになりました。多くの企業は、自社ネットワークへの幅広いアクセスを必要とするリモートユーザに対し、十分なセキュリティを提供していなかったためです。VPNに代わるものとして、マイクロペリメータ、リアルタイムのセキュリティ状況チェック機能、SASEサービスの普及が予測されます。
エンタープライズ ブロックチェーン
大手金融機関はブロックチェーン技術に本腰を入れる
キット・コルバート(Kit Colbert) VMware, 最高技術責任者(CTO)
現在、多くの部門が関わる企業のワークフローは断片化されており、非常に複雑で維持が困難です。このような状況は業務の遅延やコストの増加につながり、イノベーションの妨げにもなります。ワークフローのデータは企業内でサイロ化していることが多く、部門を越えたデータの共有や照合のためには、非効率で高コストな作業が避けられません。このような状況に役立つのが、ブロックチェーン/分散型台帳技術です。ブロックチェーン上に構築されている暗号通貨や非代替性トークン(NFT)がトレンドとして記事の見出しに上る一方、ブロックチェーンは企業内で静かに広がり、生産性を向上させています。ブロックチェーンの真の実力は、複数の関係者が信頼性の高い共有データソースのもとで連携できるようにして、トランザクションを完全かつセキュアにデジタル化することにあります。企業におけるブロックチェーン導入は、成熟したテクノロジ、新たなデリバリモデル、標準規格の採用、広範で活気に満ちたエコシステムのエネルギーによって加速しています。2022年は、エンタープライズ ブロックチェーンの価値がより明確になるとともに、(サプライチェーンでの利用など)多くの業界で導入が急激に加速し、組織の境界を越えてビジネスを行うことの本質が根本的に変わると、VMwareは予測しています。ブロックチェーンは、金融サービス業界の求める性能要件と複雑な業務ニーズを既に満たしていますが、2022年には、エンタープライズ ブロックチェーンの導入がさらに拡大し、大手金融機関が自信を持ってブロックチェーン技術を本番導入すると予想されます。
Netherlands Cancer Institute
人工知能(AI)と機械学習(ML)は、特にビッグデータと画像の領域で、今後のがん研究の進め方に影響を与える
ロエル・シスターマンズ(Roel Sijstermans) Netherlands Cancer Institute(NKI), ITマネージャ
NKIが重点的に取り組む領域として、画像や研究モデルによるがんの判別にAIやMLを取り入れていきます。これにより医療従事者の意思決定を支援する医療画像の自動解析や、がんの起源を解明するための細胞の解析などをサポートできます。
研究者の活動を支援するためには、広範囲なワークロードに対応できる高性能なインフラが必要です。また、他の研究機関とのデータのやり取りをサポートできる、スケーラブルかつセキュアな環境でなければなりません。そこで、皆で協力してシステムの効果を高めていく必要があります。ネットワークの仮想化、コンテナ化、ワークロードの分離による単一プラットフォームの共有など、さまざまなテクノロジを今後数年間で活用していきたいと考えています。
これらのテクノロジによって生まれる新たな可能性により、研究者はより柔軟かつ安全に作業を行うことができ、近い将来、私たちのミッションである「すべてのがんの治療法」を確立できるでしょう。
VMwareのリーダーたちによる、2022年の未来予測についてどう思われましたか?皆様それぞれの予想についても、ぜひお聞かせください。
キット・コルバート(Kit Colbert)
VMware, 最高技術責任者(CTO)兼上級副社長
*US原文は下記URLよりご覧ください。(英語サイト)
https://news.vmware.com/leadership/vmware-2022-predictions